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「何を」
「え」
「何を話せばいいのかわからない」
三枝さんが言ったのはそんな言葉だった。
何を話せばって・・・・・・。
「話をしたかったんですか」
「今さらだと思うだろう。自分でもそう思う。俺は全く彼のことに興味を示してこなかった。金だけを振り込んでおけばいいと思っていた。だから、彼のことをなにも知らない。だから、何を話せばいいのかわからない」
「今さら・・・・・・、わかってんじゃん。今さらだよ。俺、もう十七だよ。十七年も放置しておいて今さら話がしたいって、バカにしてんの」
黙っていた春名が捲し立てるように言った。溜め込んでいたことが溢れ出したのだろう。表情は今にも泣きそうだった。
「すまないと思っている。何を言っても言い訳にしかならない。あの頃は、仕事が大事な時期で、スキャンダルになるのが怖かった。そうしているうちに、彼女は俺に見切りをつけ一人で生きていくことを決めてしまった。父親としての自覚もないまま、そのあとも父親としてなにもせずに来てしまった」
「どうでもいい、聞きたくない」
「彼女のご両親が立て続けに亡くなったと聞いても、俺にできることは生活面をサポートすることだけだと決めつけ、すべてを棚橋に任せてきた。それでいいと思っていた」
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