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三枝さんは、必死に見えた。懸命に言葉を紡いで語りかけている。春名は聞きたくないと眉間にシワを寄せ俯いているが、俺はしっかりと聞き届けようと思った。
「でも、今度映画の役でろくでなしの父親の役をやることになった。自分の息子を捨てた男の話だ。その男は最終的に、捨てた息子を迎えにいそこでその息子の絶望や孤独を知るんだ。俺はお前に同じような絶望や孤独を与えてしまったのだと思った。本当に今さら過ぎる。はじめて後悔した。お前に、取り返しのつかないことをしてしまったのだと・・・・・・。だから、ちゃんと会って話がしたいと思った。罵られても構わない。嫌われても、恨まれても。ちゃんと顔を合わせようと思った」
勝手な話だと思った。その映画で役をやらなければそういう思いに気づかなかったということだ。創造力が足りない。自分がしてきたことの責任感がない。
それでも、後悔の念は伝わってくる。向き合おうとしている。その思いだけは伝わる。
「でも、いざ顔を合わせると何を話していいか・・・・・・。すまない」
「俺には父親なんていないと思っていきてきた。顔も直接見たこともない、声を交わしたこともない人間を父親だと思えと言われたって無理な話だろ。だから今さら目の前に現れたからって父親だって思えない」
「ああ。わかってる。父親と思ってくれとは思っていない。だが、俺にできることはしたいと思っている」
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