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「なに? 高橋(たかはし)さん、失恋でもしたの?」 「失敬な! 失恋なんかしてないですっ!」 今のところは、と心の中でこっそり付け足す。もしも失恋したら、あなたとこんな風に会話することもありませんからねーだ。 なにを隠そう、私はこの氷室さんに、絶賛片思い中。実は好きで好きで仕方ない。 でも、ヘタレだから想いを伝えることもできない。というわけで、失恋の予定も今のところはない。 「だよね。高橋さん、可愛いもんねー」 私の心中などお構いなしに、氷室さんはニヤニヤ笑って見下ろす。 「またそうやって、すぐからかう!」 「そうやってすぐムキになるの、可愛いよね」 「もうっ……」 なんて怒ったフリをするけど、こうして構ってもらえるのが本当は嬉しくてたまらない。 「んで? 何にため息ついてたの?」 こんな風に気にしてくれる優しい所とか、本当に好き。好き過ぎる。 「あー、実はですね……」 私は、日帰りバスツアーの件を掻い摘んで説明した。ここでさりげなく氷室さんを誘える器量があればいいけど、もちろんそんなものは持ち合わせていない。 それ以前に、私の今度の2連休に彼が出勤だってことは、しっかりチェック済みだ。
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