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本当にああ言えばこう言うやつだ、子供の屁理屈に聞こえるが筋は通っている。天才科学者はゴキブリと話していて「楽しい」と思うようになっていた。
「さっきエクソンって言ったけどな、DNAで残される情報のことを言うんだ。逆に残されない情報をイントロンって言うんだ。ヒトの中ではゴキブリに食われてた記憶がエクソン化されてて、猫の中ではゴキブリに食われてた記憶はイントロン化されてるだけだろう、だから猫はお前らを怖がらないってだけだろ」
「ヒトってよく分からないですね」
「ヒトはヒトが一番良く調べてるけど、未だにわからんことの方が多い。今言ったイントロンやエクソンだって実際のところよく分ってない」
「七十億人もいて分からないことだらけですか、もっとみんなで知恵を合わせればいいのに」
「七十億いても使える知恵は僅か数%に過ぎないぞ。一兆五千億匹もいるお前らがそれを言うか」
地球上にいるゴキブリの数は約一兆匹とされている。もし地球に宇宙人が来て、生物の数と繁殖力で頂点を決めるとしたら、間違いなくゴキブリを地球の頂点に立つ生物と認定するだろう。
「さっき、猫に食べられるとか言っていたが…… 味はどうなんだお前ら」
「まさか食べるつもりですか? この蛮族が!」
「聞くだけだよ」
「この前、友達食べたんですけど」
「サラっと凄いこと言うな……」
ゴキブリは頭がいいとされているが所詮は虫か。天才科学者は少し落胆するのだった。
「お正月のおせち料理のゴミに残ってた海老と同じ味がしました」
海老とゴキブリは味が同じで、エビの尻尾とゴキブリの表面の羽根はほぼ同じ材質であると言う学説を聞いたことがあるが、まさか本当とは。天才科学者がそんなことを考えているとゴキブリがおもむろに言い出した。
「海老は割と好かれてますよね」
「そりゃあ、めでたいことの象徴だからな」
「でも、あいつらだって見た目は僕らに勝るとも劣らないぐらいにキモイですよ。触覚も長いし、カサカサ素早く動くし、足の数も僕らよりはるかに多いし」
「黒光りしてないだけだろ。それに基本は海の中にいるからキモイ要素を見ることはほぼない」
「似たようなものなのに差別じゃないですか。海老だって茹でなければそれなりに黒いし、陸上にいたら僕らと同じ扱いになると思いますよ」
「しらん! 海老は食べて美味しいから好かれてるだけだ」
「ヒトが虫食べるようになる時代が来るのが怖くなってきました。僕らもどうなることやら」
「安心しろ。昆虫食が解禁されてもお前らを食べるようなことはしない」
「味、海老と同じですよ? それでも?」
「それでもだ!」
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