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天才科学者は手に持っていた丸めた新聞紙をゴキブリに対して振り下ろした。
ゴキブリは哀れその生命を散らすこととなった。普通であれば簡単に避けることが出来たのだが、話をしていた故に完全に油断をしていたのだ。
体を油でコーティングしているゴキブリが油断した故に生命を失うとはどんな皮肉だろうか。
天才科学者は話を強引に打ち切ったようで申し訳なく思いながら潰れたゴキブリが貼り付いた新聞紙をなるべく見ないようにして丸めてゴミ袋にぽいと放り込んだ。
「掃除でもするか」
自らの研究室をゴキブリが出るようなゴミ屋敷にしてしまったことを反省しながら天才科学者は掃除を始め、終わりがけになるころに政府の使いの者がやってきた。これまでFAXだけのやりとりだったのに、完成が遅れたせいでしびれをきらしたのだろうか。だったら初めから面出せよと天才科学者は心の中で舌を鳴らした。
「翻訳機は完成したかね?」
天才科学者は笑って誤魔化した。まさか、ゴキブリ語の翻訳機が出来てしまったとは言えない。
「まだかね。いくら君にカネ出してると思ってるんだね」
追加予算の申請を一蹴したくせによくもまぁいけしゃあしゃあと。天才科学者は苦虫を噛み潰したような顔を見せた。
政府の使いの者はネチネチネチネチと天才科学者に向かって説教をする。カネがかかっている、期間が短いんだからもう少し本気で開発に取り組め、などと言った不条理な説教である。
天才科学者は奥歯を噛み締め説教に耐える。思うことは……
嫌われている者程、自分が嫌われる理由に気がついていない。そう、先程のゴキブリも自分が嫌われている理由に気がついていなかった。
天才科学者は説教を受けながら耳に入れていた翻訳機の電源を切った。
すると、説教の声は聞こえなくなった。
おわり
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