第4章 いつか恋が

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(莉乃) キャンプファイヤーが終わり、テントに戻った私は、明日の朝が早いので、早目に横になる。 目を閉じてもキャンプファイヤーの出来事を思い浮かべてしまう。 キャンプファイヤーで聞いた、圭子さんの歌声。 過去を思い出し泣いている時のショウリの言葉。 圭子さんの歌では無いけれど、何だか自分が変われる様な感じがした。 それにしても、ショウリの胸板は、思ったより厚かったなあ。 と、気を許すとショウリの事ばかり考えてしまう。 私の心がショウリに流されていくのを感じる。それは決して嫌なものではないのだが、ショウリに好きな人がいる事も知っているので複雑な気分であった。 それでも、今の私の頭にはショウリの事で頭がいっぱいだ。 どうしたらいいの? キャンプが終わったら、もう終わり? 絶対に嫌だ。 でも自分から連絡先を聞く勇気もない。 そんな事を考えていると 眠れない。 父がテントに入って来た。 「寝れないのか?」 「うん」 「キャンプは楽しかったか?」 「うん」 「そうか、勝利君を好きになったのか?」 「うん」 と言った後に 「違う、好きになりそうなだけ」 「いいじゃないか、それに好きになりそうと思った段階で、既に好きなんだよ。そして、好きになった時点で恋が始まるんだよ。」 「そうなの?こんな感情は初めてでよく分からないや。 ではこれが初恋?」 「そうだな、 恋は誰でも出来る、だが、お互いが恋をした時に愛に変わる。 そして、二人が一緒に歩いて行こうと思っている限り、愛は終わらないんだ。 離婚したパパが言っても説得力ないけどな。」 と父が笑う 「一緒に歩く事も出来なかったら?」 「それは莉乃の運命の人では無かったという事だと思うよ。 莉乃が恋を抱いても、相手が莉乃に恋を抱かなければ、莉乃の恋は愛にはならない」 「そうだよね。相手もいるんだもんね。」 ショウリの運命の人は、今ショウリが好きな子なのかな。 嫌だな 「でもな、運命の人って、パパはいると思ってるんだ。 きっと運命の人だったら、いつか結ばれると思うよ。」 「パパって意外と乙女チックだね。」 「うん。パパは恋に変わっちゃったけど、いつか愛になると信じてるんだ。」 「えっ!パパは今でもママの事?」 「うん。いつまでもママに恋してる。」 「他の男と逃げたのに?」 「うん」 「パパの事を、既に忘れているかも知れないのに?」 「あんまり虐めるなよ。逃げた女房をいつまでも未練がましく想い続ける情けない男だって、思い知らされているみたいだよ」 「でも、そんな格好悪いパパの事、私は好きだよ。 私の恋が実らなくても、パパの話を聞けただけで、キャンプに来て良かった。」 「莉乃なら大丈夫だよ」 「何で?」 「うーん、親の感かな」 「パパありがとう。なんか眠れそう。 おやすみパパ」 「おやすみ」 そして翌日3:10 テントの中でゴソゴソと音がしていたので、目を開けた。 「パパおはよう。もう行くの?」 「うん。小野さんも起きているから、行って来る。 莉乃はもう少し寝てていいよ」 と言って、テントを出て行った。 私は起きようとしたが、また目を瞑ってしまった。 そして、少し経った時に、横のテントでショウリの声が聞こえる。 「母さん、起きて!もう出発しちゃうよ」 その声で私も目を覚ます。 あっもう出発の時間だ。 私は起き上がり、テントを出て、トイレに行った。 寒い! さすがに短パンとTシャツでは寒い。トイレを出て、着替えようとテントに向かったが、大テントの横で、焚き火にあたるショウリの姿が目に入り、そのままショウリの所に向かった。 昨日、胸を借りて泣いてしまった私は、どういう態度をとればいいのか考えて、今日は女の子らしくいこうとしたが、いざショウリの前に行くと、思いと裏腹に、つっけんどんな態度をとってしまった。 「おはよう、寒いわね」 「おはよう。その格好では寒いだろう?」 「うん、寒い。 ねえ、コーヒー入れてよ」 するとショウリは、ガスコンロでお湯を沸かし始める。 「ねえ、長ズボンに着替えて来れば?その格好では寒いだろ?」 「うん。面倒くさいからいいよ。そのうち日が出るでしょ」 「日が出るのに、まだ1時間近くあるよ」 「じゃあ毛布持って来てよ。」 ショウリは、私がお願いした事を聞き入れて、毛布を取りにテントに向かう。 違う! 私は自分に腹をたてる。 何で女の子らしく出来ないの! こんな事では嫌われる。 でもショウリは優しいなあ ショウリが毛布を一枚持って戻って来た。 そして私に毛布を渡してくれた。 お湯も湧いたので、インスタントコーヒーも渡される。 「はいコーヒー」 「ありがとう」 毛布もコーヒーも、そして何よりショウリの優しさに 「あ〜あったまる」 でもショウリは、寒そうに手を擦り、火に両手をかざしている。 私は照れながら、毛布を半分くらいショウリの肩に掛けてあげた。 「これなら寒くないでしょ」 と笑顔で言う。 わあ、二人で一枚の毛布に入っちゃった。 そんな私の気持ちと違い、ショウリは何か考えている様子だった。 いきなり毛布を掛けたのは、やり過ぎだったかな? もしかして、好きな子に罪悪感を抱いているのかしら? 沈黙が続いていたので、話題を作ろうと、飲み終わった紙コップを焚き火に放り込む。 「この紙コップも燃やしちゃおう」 と元気な声で言った。 紙コップが燃えて灰になり始めると、いきなりショウリが 「莉乃、アドレスを教えて欲しい。」 えっ! 本当? 私は取り乱さぬように冷静に 「いいわよ」 と言ってポケットに入っていた携帯をすぐに抜き出した。 すると 「ごめん、テントまで取りに行ってくる。」 何と携帯をテントに置いてきたらしい。 その間に考え直して、やっぱり辞めた、何てオチは無いわよね? そんなありもしない事を考えていると、ショウリが携帯を持って走って来た。 転んで携帯壊さないでね。 ショウリは 「ごめん。」 と言って、携帯を差し出す。 アドレスの交換で手が震えたのは、これが初めてだった。 そんな幸せな気分だったが、男性恐怖症の事など、自分の心で閉ざしていた事を、私の口できちんと伝えないと、前に進めないと思った私は、ショウリに、 男性恐怖症になった原因、そしてそのせいで母について行けなかった事を、包み隠さず話した。 ショウリは黙って私の話を聞いてくれた。 ショウリの顔が少し赤く見えた。 私、やっぱりショウリが好き! 私は自然とショウリに寄り掛かかる。 「この方がもっとあったかいね」 と、ショウリに向かって微笑んだ。 その時! ショウリの顔が近づいて来る。 私は目を開けたまま固まっていると、ショウリの唇が私の唇に触れた。 ! えっKISS? 頭が混乱する。 どうしたらいいのか、分からず、テントに逃げる様に走った。 テントに着くと、胸の鼓動が激しく鳴り響く。 何で? 好きな子がいるんじゃあ無いの? すると足音が段々と近づいて来て、テントの前で止まった。 そしてショウリの声が聞こえてきた。 「莉乃、ごめん。」 何て答えていいか分からない。 「俺、莉乃が一番嫌いな事しちゃった。 何であんな事しちゃったか、自分でもよく分からないんだ。 ごめん。」 えっ! よく分からないのにKISSしたの? それって、最低! 私はその言葉に怒りを感じ 「向こうに行って! 向こうに行きなさいよ! アンタと喋りたくない。」 と大きな声で伝えた。 涙が出てきた。 好きでもない女にKISSする様な男だったんだ。 私、本当に好きだったのに 涙が止まらない。 昨日の涙より、悲しく切ない苦しい涙であった。 運命の人だったらいいのにとまで思った、私自身の馬鹿さ加減も腹ただしい。 するとショウリの声が聞こえてきた。 「俺、本気だから。 こんな短い時間で信じられないと思うけど、 俺・・・ 莉乃の事が好きだ。 さっきはごめんね。」 ! 何? 今好きだって言ったの? KISSした言い訳? 分からない、分からないよ。 しばらく考えるが、答えが出ない。 もう5時かあ、どうしたらいいの? ちょっと早いけど 私は美希に電話を掛けた。 2ヶ月ぐらいしか交際実績は無いが、一応恋愛の先輩だ。 美希が電話を取った。 「何?こんな早い時間に」 と眠そうに電話に出た。 「話せが長くなるから、要件だけ言うね」 「もう、何よ!」 ちょっと怒り加減だ。 「私、KISSされちゃったの」 「えっ?もう一度言って」 「もう二回も言わせないでよ。KISSされたの」 「えっ!無理やり?」 「うーん。微妙」 「微妙って何?莉乃が私より早くKISSするなんて、有り得ないんだけど!」 「その言い方は、引っかかるわね。」 「でっ?付き合ったの?」 「ううん。」 「えっ!付き合って無いのにKISSしたの?」 「もう、いちいち驚き過ぎだよ。 そうよ、付き合って無いのにKISSされた」 「えっ!そんな男は、遊び人だよ。そんな男は辞めた方がいいよ」 「遊び人では無いと思うよ。ただ、好きな子がいた筈なんだけど、急に私の事を好きになる何て事、あるのかな?」 「無い無い。そんな事ある訳無いに決まってるでしょ。出逢って何日目よ?」 「2日とちょっと」 「無いわ〜そりゃ無いわ。莉乃は、遊ばれてるのよ。 悪い事言わないから辞めときなよ」 プツン! あっ充電が切れた。 やばい、電池の充電器も使い果たしたし、車の充電器を使わないと充電できない。 車の鍵もエンジンのかけ方も分からないので、充電を諦めた。 そうかあ。 辞めた方がいいのかあ でも私も2日ちょっとで、恋に落ちたんだけどなあ 私は横になり、ショウリとの事をどうしたらいいか、考えていたら、いつのまにか寝てしまった。 外が騒がしくなった。 父達が帰って来た様だ。 私は起き上がり、テントを出た。 父の姿が見えたので、父の方に向かって歩いて行くとショウリが父の前に立っている。 父の前にいるショウリが、 「莉乃?」 と小さい声で呼び掛ける。 私はどう態度をとっていいか分からず、無視して父の元に行った。 私は父に 「今日何時に帰れるの?」 と聞くと、 「朝ごはん食べたら、片付けて帰るよ」
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