第1章 出逢い

8/8
25人が本棚に入れています
本棚に追加
/20ページ
(勝利) 集合場所に着いたが、さっきからお腹の調子が悪く腹痛が襲って来ていた。 集合場所に人が集まり始めてきたが、父の所に行き 「ちょっとお腹が痛くなって来たから、トイレ行って来るね。 「分かった。もう時間もあまり無いから、トイレが終わったら、そのまま配置場所に行っていいぞ」 「分かった。」 僕はトイレに駆け込むが、こんな時に限ってトイレが空いてない。 他のトイレに移動したいが、激しく動くと我慢できなくなりそうだったので、このまま待つ事にした。 そしてやっと一つ空いて、トイレに急いで入り、用を足す。 肝試しも気になるが、今はそれどころでは無かった。 こんな時に限って、お腹が下っていて、腹痛も治らない。 しばらくトイレに閉じこもって、やっと腹痛も治まりかけた所でトイレを出た。 既に肝試しは始まっていたので、急いで配置場所に向かった。 所々で叫び声が聞こえて来る。 あっ!分岐点だ! 灯りを見つけて、更に急いだ。 そして分岐点に着くと ? あれ?社長の娘がいない。 キャー ? あれ?登山道の上の方から叫び声が聞こえた。 社長の娘が誰かに襲われている? 僕は、そんな事を思いながら、武器になりそうな物を探すが見つからない。 しょうがないので、足元にあった、ちょうど野球の球ぐらいの大きさの石を見つけ、それを持って叫び声のした場所に走る。 「誰か〜助けて!」 すぐ近くから声がした。 目を凝らして辺りを見回すと、木の下でうずくまっている社長の娘の姿が見えた。 その前方から鹿が突っ込んで来るのが見えた。 僕は振りかぶり、鹿に目掛けて石を投げた。 当たった! 当たった鹿は、逃げて行く。 うずくまっている社長の娘の所に行き声を掛けると、社長の娘が僕の胸に飛び込んできて、震えながら泣き出した。 少し胸を貸していると、下から悲鳴が聞こえて来た。 僕は、震える程怖がっている彼女を冗談を言って、落ち着かせようと 「あっ!今の悲鳴。君の悲鳴に似てたよ」 と言うと、胸から顔が離れて、僕を睨み 彼女の手が僕の頬に向かって飛んできた。 ビシッ! 痛! すかさず彼女が 「アンタがいなかったから、心配してこんなとこまで来たんだからね。 ふざけないでよ! 私、テントに戻るから、アンタが一人で驚かす役をやってね!」 と彼女は言い放ち、怒りながらこの場を離れていった。 ? 僕を心配して、こんな所まで来ていたんだ。 そうであれば、さっきの言葉は非常識であり、彼女が怒るのは当然だと思った。 取り敢えず分岐点まで降りて行く。 すると肝試しに参加している男女二人が、こっちに向かって歩いて来るのが見えた。 僕は身を隠し、用意されているテープをまわす準備をする。 彼氏だろうか、男性が石を置いたのを確認した僕は、テープを流す 「助けて〜」 すると女性が悲鳴をあげる。 「キャー」 彼女はその場にうずくまり、彼氏が手を貸して、彼女を立たせた。 僕はその一連の行動を見て、人の仕業と分かっていて、悲鳴をあげるのと、さっきの彼女の悲鳴は明らかに違う事に気付いた。 彼女の悲鳴は、自分の命の危機を感じて発した悲鳴だったのだろう。 そんな危険な思いをさせてしまった事と、不適切な発言をした自分を恥じた。 とにかく謝ろう! そう思った僕は、分岐点を離れて入口に向かって走って行く。途中でお化け姿の母を見かけたので 「母さん、テントに戻るね。」 「どうしたの?」 「彼女に悪い事しちゃって、謝ってくる。」 母はこれ以上聞かず 「分かったわ。行きなさい!」 と言ってくれたので、また走り出す。 「勝利、頑張ってね」 と後ろから大きな声で、僕に向かって叫ぶ母の声が聞こえた。 頑張ってって? テントが見えた。 テントの内に灯りがついているので、僕は更にスピードを上げて走った。 息を切らし、走り続ける。やっと、目の前にテントの入口が現れ、スピードを落として、入口前に着いた瞬間、勢いよく閉まっていた入口が開く、僕は目の前にいたので後退りすると、石につまづいてバランスを崩す。そこへ彼女の体が僕にぶつかり、転んでしまった。 痛! すると彼女が近づいて来て、僕に手を差し出す。 差し出してくれた手を掴もうとした時、彼女と目が合った。 彼女は僕に出した手を引っ込めた。 転んで服についた汚れを手で払いながら立ち上がり、彼女に謝罪する。 「さっきはごめん。」 「何が?」 「何がって、僕を心配して来てくれたのに、あんな事言ってごめん」 「だから何が?」 えっ! 「いや、だから」 と言い直そうとすると 「だから別に何とも思ってないから、いいって言ってるのよ! 別にアンタを助けるつもりで行ったんじゃあ無いから!」 まさかこんな切り返しが来るとは思わなかった僕は、彼女の言葉に反発してしまう。 「じゃあ何で、あんな所に一人で行ったんだよ!」 「そんなの散歩よ、散歩」 まったく、本当に素直じゃない。 「そうなんだ。分かったよ。ただ取り敢えず謝りたかったから、勝手に謝らせてもらうよ。 さっきは本当にごめん。」 何を言っても聞きそうも無かったので、それだけ言って戻ろうとすると 彼女が急に訳の分からない事を言ってきた。 「アンタ、背はもう伸びないわよ!」 ? 「アンタのお父さんも、手と足が大きいのに、背が小さいでしょ。アンタの手足が大きいのも遺伝よ。だから、もう背も伸びないのよ。」 ? 何でいきなり? まったく予想外の事を言ってきたので、訳が分からない。 「君には関係ないだろ!」 僕も薄々感じていて、実は凄く恐れていた事である。 それを僕の事を知りもしない人が言ってきたのだ。 僕は明らかに動揺していた。 彩香ちゃんの事、野球の事等、僕が想い抱いていたプランが崩れ落ちていく感覚が襲う。 こんな何とも無い一言が僕の夢を崩していく。まだ今日会ったばかりの、一人の女の子に。 僕は、この場に居たくなくて、逃げ出す様に走った。 宛など何も無く、ただ現実から逃げるかの如く、闇雲に走った。
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!