第1章 出逢い

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第1章 出逢い

(勝利) 「その日は無理だよ!夏期講習がある日だよ。キャンプなんて行ってられないよ」 「これは、パパの出世がかかった大事なイベントなんだ。夏期講習なんて行かなくていい!」 「この夏に頑張らないと、行きたい高校に行けなくなっちゃう。」 「そんなの、お前がレギュラーでも無いのに、野球を続けていたからだろ!」 「貴方、それは言い過ぎよ。勝利(カツトシ)だって、レギュラーを目指して頑張っていたのに。」 「圭子。これは本当に大事なイベントなんだ。本社の社長も来るんだ。勝利がレギュラー目指すのと同じ様に、ここがパパの正念場なんだ。」 父の言葉を聞き、レギュラーを目指して頑張っていた時の自分と父の姿が、重なって見えた。 「分かったよ。キャンプに行くよ。」 「勝利ありがとうな。」 こうして、神奈川県の丹沢へ、夏休みの大事な夏期講習がある日に、2泊3日のキャンプに行く事が決まった。 僕がここまで必死に勉強に取り組んでいるのには訳がある。 ******* 小学校の卒業式 「僕は将来、甲子園で優勝投手になってからプロ野球選手になります。」 と高らかに将来の夢を宣言した。 僕の小学校の卒業式では、卒業証書を授与した後に壇上のマイクで将来の夢を宣言するのが習わしとなっていた。 それから野球は誰よりも真剣に取り組んで、僕はまだその夢を諦めていない。 父が言うには、僕の手と足は大きいので、そのうち身長が大きくなると言われていたので、大きくなったら勝負と思っていたが、一向に大きくならない。 背が小さくても投手で成功出来るアンダースローを習得し、投手として頑張ってきた。 まだこれから体も成長していくはずだ。体の成長が始まってから勝負だと考えている。 その為にも、野球が強い高校への進学は必須だった。 ******* そして、数日後。 (キャンプ当日) 25人乗りのマイクロバスを2台借りて、東京の江戸川区にある、父の会社からバスは出発する事になっていた。 僕も知らなかったが、父は大型免許を持っているので、マイクロバスの運転をする事になっていた。 会社に続々と人が集まってきたが、殆どが家族を連れなのだが中学生は僕だけであり、子供は小学生や幼稚園ぐらいの子供ばかりであった。 「ねえ母さん?」 「何?」 「中学生なんていないね。」 「そうね。キャンプに参加する人は、大体が小さい子が多いのよ。大きい子がいる家庭は、勤めてる人だけが参加してるんでしょうね」 「そうだよね。」 僕は苦笑いを浮かべた。 「でも何で父さんは、あんな必死に俺を誘ったのかな?」 「さっきも言ったけど、ここに来る子は、小さい子ばかりだから、大きい子が面倒見ないといけないのよ。」 「えっ!そんな事は聞いてないよ。」 「親だけのイベントも企画しているから、その間の子守が必要だったんではないかしら?」 さっと数えても10人前後はいる。 「ねえ。本当にこの人数を子守しないといけないの?」 「そういう事ね。頑張ってね。」 父の声が聞こえる。 「皆さん。全員揃ったので、車に乗って下さい。」 「さあ、勝利。私達もバスに乗りましょう。」 こうして、キャンプ場を目指して2台のマイクロバスは出発した。 車中で母に質問する。 「そういえば社長って、どの人?」 「社長は、現地に直接行くそうよ。」 「ふ〜ん」 マイクロバスは、首都高速を抜けて、東名高速に乗り、御殿場インターを目指していた。 途中の海老名パーキングでトイレ休憩を取る事になっている。 車は海老名パーキングに着いて、15分の休憩を取る。 丁度トイレに行きたかったので、パーキングに到着すると、トイレに駆け込んだ。 トイレを済ませて、パーキング内の店舗を、なんの気も無しに見て回る。 するとソフトクリームの看板に目がいった。 (ソフトクリームか。食べようかな?) 僕はポケットから財布を取り出し、ソフトクリームを買う為に、店舗に並ぶ。 今日は日差しも強く、考える事が皆んな同じなのだろう。 結構な行列が出来ていたが、休憩時間には間に合うだろうと、最後部に並び順番を待つ。 そして順番がやって来て、店員に 「ソフトクリーム1つ下さい。」 やっと買えた。何とか時間も大丈夫で、ホッとする。 店員からソフトクリームを受け取って、列から外れると 「勝利!そのソフトクリームくれ。」 えっ? 父の声だ。 父の横には、背が高く引き締まった体をしている男性と、更にその横には、いかにもお嬢様といった白いワンピースを来て、髪はストレートのロング、くっきりとした二重瞼で、少し切れ長の目が大人の雰囲気を演出している女性の姿があった。 高校生だろうか?ちょっと僕より年上の様に感じた。 (それにしても綺麗な子だな) 父は、僕の買ったソフトクリームを取り上げ、その女性に渡した。 しかし 「要らないわ!あの子が触っていたのを食べるなんて、死んでも嫌よ!」 横にいた男性が 「莉乃(リノ)!失礼だろ!」 「じゃあパパは、私に嘘をつけって言うの?」 「言い方の問題だ!人を傷つける様な言い方をするなと言う事だ!」 「じゃあパパは、その子が持ったソフトクリームを、どうしても食べたいって、私が言ったらどうするの? 嬉しい?」 「話をすり替えるな!死んでも嫌などと言う表現を止めろと言っているだけだ」 「はいはい分かったわ。」 すると僕の方を指差して 「あんたが触った物は食べたく無いのよ」 彼女は、溶け出したソフトクリームを僕の方に差し出す。 「要らないわ!」 あまり人に怒った事がない僕だが、プライドもズタズタにされて、頭に血が登っていたので 「君が触った物なんて食べれないよ。何処かに捨てといて!」 と言って、その場を離れた。 彼女は悔しそうに、ソフトクリームを地面に叩きつけた。 それを父が拾い、ゴミ箱へソフトクリームを捨てたのであった。 社長「あの子がエースで4番の、小野さんの息子さんですか?」 父「はい」 社長「イメージとかなり違かったから、意外でしたよ」 父「見た目は細いから、良く言われるんです。」 僕はそんな会話をしているとも知らず、バスに乗り込んだ。 「勝利どうしたの?何か怒ってる?」 「なんか嫌な人に会って、気分悪くなっちゃった。」 (そういえば、あれって誰だったんだろう?) 「あっ!勝利」 「何?」 「あれが社長よ」 僕は母が見つめる方向に目を向けると、さっきの親子がそこに居た。 何とも前途多難なキャンプの幕開けだった。 海老名のパーキングを出ると、キャンプ場まではノンストップで車を走らせる。 御殿場インターを降りると景色は緑一色に染まる。 さらに車を走らせて行くと、道も細くなり、所々でキャンプ場という文字が書かれた看板が目につく様になって来た。 運転手を務めている父がマイクで 「もうすぐ着きますよ。降りる準備をして下さいね。」 「やっと着くわね」 少し車酔いしていた僕は 「うん。」 とだけ答えると 「具合悪そうね。車酔い?」 「うん」 そして車はキャンプ場に到着する。 僕は景色など見る余裕もなく一直線にトイレに向かう。 胃の中の内容物が喉の所まで押し寄せて来ていた。 トイレ→100mの看板を見つける。 (ダメだ!もたない) 僕は、トイレに行くのをやめて、人気の無い場所に移動して胃の内容物を吐き出した。 (ふう) 胃がスッキリして、バスに戻ろうとすると、目の前に社長の娘が立っていた。 「あんた、それでも海江中学校のエースで4番なの? 情けない!」 ? 「あれ?君の口にも嘔吐物が付いてるよ」 「えっ!私はちゃんと拭いたわ・・・」 彼女は、つい口から出た言葉が、言ってはいけない言葉だったことに気づいたが、既に言い切った後だった。 「やっぱり僕と同じだったんだね。こんな人気の無いところに一人で来るはずが無いと思った。」 と、勝ち誇った顔で彼女に言った。 「何、勝ち誇ったような顔してるの?馬鹿じゃない。私が吐いたのは、か弱いからだけど、あんたは男でしょ!情けないのよ! それに女の子が吐いた事を勝ち誇った顔して、言ってくるなんて、性格の悪さが滲み出ているわ!本当、最低」 少し離れた所から声がする。 社長の声だ 「おーい。莉乃はいるか?」 「パパ!助けて!」 その言葉に社長が走ってくる。 (まずい。悪い事はしてないが、僕のせいで、父が後で責められる事だけは避けたい。」 僕は木陰に隠れて、息を殺す。 「大丈夫か?」 「パパ、私ここで吐いちゃった。ごめんね」 「そんな事か、誰かに襲われたのでは無いかと心配したよ」 「でもね、私が吐いたのを馬鹿にした小学生がいたわ」 「小学生では仕方ないだろ。知能指数が低いんだから」 こいつは絶対わざと聞かせる様に言っている。 「じゃあ莉乃行くぞ。皆んなテントを張り始めたからな。」 「うん」 社長が先に歩き始める。 その後を追う様に、あいつは歩き始めるが、すぐ足を止めて、隠れている僕に聞こえる様に 「知能指数が低いからしょうがないか! もしかして今も自分の事だと分かって無かったりして。 笑える」 「莉乃!何言ってるんだ」 「ごめんね、パパ」 とチラッと軽蔑の眼差しで、僕を睨み走って行った。 本当に性格が悪い女だ! (莉乃) 父は元々制作会社に勤務していた。アニメーション、映画関連を製作する会社だったが、勤務時間は締め切りが迫ると、泊まり込みで作業が発生する。 毎日一生懸命働いていたが、気がついた時は母は男を作り離婚する事になる。 私も母に一緒に住もうと誘われたが、母と一緒にいる男性が嫌いで、私は母と一緒に行く道は選ばなかった。 それが小学校3年生の時だった。 父はこのままでは、子育てとの両立は難しいと判断して会社を立ち上げる。 内容は前職と同じ制作会社だが、同僚にも恵まれて会社は成長していった。 本社は千葉で、亀戸に支店を作った。 私の家は、御茶ノ水にあり、学校のある池袋にも近い。 学校は、中高一貫校の名門女学校に通っている。 一定の成績を取っていれば、そのまま高校に進級できるのだが、成績が悪い生徒は夏休み中でも補習授業が組まれている。 一番仲が良い美希が、補習の魔の手に捕まってしまい、1週間続く補習の間は私の予定も無くなった。 美希は、私と同じぐらいの成績を取っていたが、中学3年の4月に彼氏が出来た事が影響していた。 その彼氏は、野球が上手くて東京では有名らしく、高校も有名校から声がかかっている程の腕前らしい。 ところが、6月の中旬に何の前ブレも無く美希に別れを告げて来たのである。連絡を取ろうとしても、携帯も解約していて繋がらず、学校に行っても会えない。 さすがの美希も諦めたけど、心のダメージが強く成績が落ち込んだ。 私は、その男を絶対に許さない。 そんな理由で美希は1週間の補習となってしまったのである。 ただ父もキャンプに行くと言っていたので、たまには家でのんびり過ごそうと、ちょっと楽しみにもしていたのだが・・・ キャンプ2日前 父が電話で誰かと話している。 「えっ!そんなにいっぱい小さい子が来るんですか?」 珍しく父の声が大きく耳に入ってしまう 「君の子だけでは、面倒見れないだろう?」 「ちょっと待っててくれますか?少ししたら、私から電話します。」 父の会話が耳に入っていたが、関係ない事だと思い、TVを見てくつろいでいると 「莉乃?」 「何?」 「お前、確か予定が無くなったって言ってたよな?」 「えっ!なんで?」 「お前もキャンプに来てくれるか?」 「えっ!ヤダよ。無理よ無理。絶対に無理。」 「そこを何とか頼む」 父にお願いされると弱い。 「何で私が行かないといけないの?」 「小学生や幼稚園生が、10名ぐらい来るそうなんだけど、大人だけのイベントも予定しているから、そのイベント中は、誰かが面倒を見ないといけないんだよ。」 「え〜誰もいないの?」 「亀戸の職員の息子が面倒を見てくれるみたいだけど、一人では可哀相だから、莉乃にも手伝って欲しいんだよ。」 「その息子って、いくつの人?」 「確か、お前と同じ歳だったと思うけど」 「同じ歳の男子が、夏休みに親の会社のキャンプに来るなんて、残念な男ね。」 「でもその子は、確か海江中学野球部のエースで4番なんだってよ。頼りになると思うよ。」 確かその中学校って? 美希の彼氏がいる中学校! もしかして美希の元カレ? 「分かったわ。私も行くわ」 直接会って文句言ってやる そんな理由でキャンプに参加したのだった。 キャンプ当日 父の車でキャンプ場へ向かう事になり、東名高速を走っていると、 「みんなが海老名パーキングにいるみたいだから、ちょっと寄ってくよ」 「ちょうどトイレに行きたかったから良かった。 海老名パーキングって、店舗が多い場所だっけ?」 「おっ!よく知ってるな」 「まあね。前にTV番組でやっていたから」 「何か食べるか?」 「暑そうだから、ソフトクリームでも食べたいな」 とちょっと甘えてみた。 「よし、特大のソフトクリーム買おう」 「そんな大きかったら、溶けて大変な事になっちゃうよ」 二人は笑う。 久しぶりに親子で出掛けて、久しぶりに父に甘えた。 (これも有りね) そしてパーキングに着いた。 私はトイレに行って、トイレから出ると、父が誰かと話している。 父が「おーい、莉乃!」 私は、父の元に行き、話していた相手の人に挨拶した。 「娘の莉乃です。よろしくお願いします。」 「礼儀正しいお嬢さんですね。」 父も満更でもない様子で 「外向けだけですよ」 「そんなご謙遜を」 「そうだ莉乃、ソフトクリーム買いに行くか?」 「うん」 そして3人でソフトクリーム売り場に向かう。 ソフトクリーム売り場が外にあり、まだ昼前だというのに、行列が出来ている。 「莉乃、ソフトクリームは辞めようか?」 そこまでして食べたく無かったので、 「そうだね。冷たいものなら、他にもあるし」 すると父と話していた男性が 「あれ?ちょっと待ってて下さいね」 と言って、ソフトクリームの行列の前方に走り出した。 それを見て私は 「ねえパパ?あの人誰?」 「亀戸の総務課長の小野さんだよ。 ほら、この前言ってた、お前と同学年の息子がいる人だよ」 (あいつか!) その言葉を聞き、美希を振った彼氏の親だと知った。 そして、ソフトクリーム売り場に行った小野さんが、ソフトクリームと男の子を連れて、私達の所に歩いてくる。 一緒にいる男が、美希を・・・ その男は、身長は私と同じぐらいなので、男にしては小さい方で、目はくっきりしているが少し垂れていて、凛々しいと言うよりか可愛い感じの顔立ちだ。 髪はスポーツ刈りなのか、5部刈りの髪の毛が伸びたのか分からないが、かなり短い。 その髪の毛を隠すように帽子を被っていた。 小野さんが手に持っているソフトクリームは、多分あいつが買ったのだろう。 そして二人が私達の所に着くと 小野さんが私に、あいつが買ったソフトクリームを差し出す。 私は 「要らないわ!あの子が触っていたのを食べるなんて、死んでも嫌よ!」 パパが 「莉乃(リノ)!失礼だろ!」 父が怒っていたが、どうしてもあいつが手で持っていたソフトクリームなんて食べたくない。 何とか食べなくてもいい話の流れに持っていこうと、強引に話を切り替える。 「じゃあパパは、私に嘘をつけって言うの?」 「言い方の問題だ!人を傷つける様な言い方をするなと言う事だ!」 私はとにかく必死だった。 既に話の終止が着かず、自分でも何を言ってるのか分からない。 「じゃあパパは、その子が持ったソフトクリームを、どうしても食べたいって、私が言ったらどうするの? 嬉しい?」 「話をすり替えるな!死んでも嫌などと言う表現を止めろと言っているだけだ」 「はいはい分かったわ。」 私はあいつを指差して 「あんたが触った物は食べたく無いのよ」 と言ってソフトクリームを突き出しながら 「要らないわ!」 しかし、ソフトクリームを取ろうとせず、 「君が触った物なんて食べれないよ。何処かに捨てといて!」 と言って、何処かへ行ってしまった。 こんな嫌な気分を味わったのは初めてだった私は、手に持っていたソフトクリームを地面に叩きつけていた。 それを拾う小野さんには、申し訳ない事をしたと、反省する。 ソフトクリームをゴミ箱に捨てて戻ってきた大野さんに 「あの〜。すいませんでした。」 と言って、頭を下げた。 「いえいえ大丈夫だよ。うちの息子が失礼な事して、悪かったね。」 と笑顔で私を気遣ってくれた。 この人の暖かみを感じる。 親はこんなにいい人なのに・・・ すると父が 「小野さん、本当にすまない。」 「いえいえ、娘さんははっきりしていて気持ちがいいですよ。 うちの息子にも、少しでも娘さんの様に、想いを伝える事が出来ればいいんですが・・・」 美希を簡単に振る男なのに、親の前では気が小さい態度をとってるんだわ。 外では違うのに・・・ こんなにいいお父さんを騙しているなんて、益々あいつの事が嫌いになった。 「莉乃、そろそろ行くぞ」 「うん」 「どうした?元気が無いな?」 「ううん。さっきは小野さんに悪い事しちゃって反省してたの」 「そうか、お前があんな事言うなんて、珍しいなと思ってたんだよ。何かあったのか?」 「ううん。何にも無いよ」 と誤魔化した。 私達の車を先頭に、キャンプ場に向かっていたが、高速を降りて更にキャンプ場に向かう細い道を通る頃から、吐き気を感じ始めていた。 車酔いだ。 「莉乃大丈夫か?顔が真っ青だぞ?」 喋ると限界を迎えそうになっていたので、顔を縦に振り、大丈夫をアピールした。 「もうすぐだからな。我慢できるか?」 話しかけないで貰いたかったが、同じように顔を縦に振った。 (やばい!) それから10分後、車はキャンプ場に着いた。 まだ後続の車は着いていない。 私はトイレを目指そうとして、10m程走ったところで限界を迎えた。 私は茂みに向かう。茂みに入った瞬間に限界が訪れた。 (せめて、木の裏に) 木の裏で嘔吐する。 吐き終わった私は、ハンカチで口を吹き、茂みを出ようとした時、誰かが茂みに向かって走ってくる。 私は急いで木の陰に隠れた。 茂みに入って来た人を隠れて見ると、 (あいつだ!) 私を通り過ぎた所で、吐き始めた。 あまりに近いので、動く事も出来ない。 (このまま、ここに隠れているのも変ね) 私はそう思うと、音をたてないように、茂みを抜けようと足を踏み出した。 (バキッ!) 小枝を踏んで音を出してしまった。 (もうヤケクソだ!) 私は、あいつに嫌味を言う。 「あんた、それでも海江中学校のエースで4番なの? 情けない!」 「あれ?君の口にも嘔吐物が付いてるよ」 「えっ!私はちゃんと拭いたわ・・・」 (はめられた!) 「やっぱり僕と同じだったんだね。こんな人気の無いところに一人で来るはずが無いと思った。」 と、勝ち誇った顔をしている。 その顔を見て、無性に腹が立った。 「何、勝ち誇ったような顔してるの?馬鹿じゃない。私が吐いたのは、か弱いからだけど、あんたは男でしょ!情けないのよ! それに女の子が吐いた事を勝ち誇った顔して、言ってくるなんて、性格の悪さが滲み出ているわ!本当、最低」 そして父の私を呼ぶ声が聞こえた。 「おーい。莉乃はいるか?」 「パパ!助けて!」 「大丈夫か?」 「パパ、私ここで吐いちゃった。ごめんね」 「そんな事か、誰かに襲われたんのでは無いかと心配したよ」 そうだ!ちょっと面白い事を考えてしまう。 「でもね、私が吐いたのを馬鹿にした小学生がいたわ」 「小学生では仕方ないだろ。知能指数が低いんだから」 (そうよ。あんたの事よ!) 「じゃあ莉乃行くぞ。皆んなテントを張り始めたからな。」 「うん」 父が茂みを出たので、一言嫌味を言った。 勿論、木の陰に隠れているのもあいつに向かって。 「知能指数が低いからしょうがないか! もしかして今も自分の事だと分かって無かったりして。 笑える」 そして私は、父の後を追って、みんながいる場所へ帰った。
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