かき氷がきた

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かき氷がきた

ここでかき氷のメニューを紹介しよう。 まずは大人気「ガーネット・ストロベリー」。 イチゴだ。 冬から初夏にかけて自家菜園で作られた真っ赤な苺を材料にした、甘酸っぱく香りの強い一品だ。一見捻りのないように思えるが、ガーネットほど騙しの利かないものはない。ストレートに勝負するからこその王道なのだ。少しでも手を抜けば、すぐに王座から堕落するだろう。 僅かに黒みがかかる赤は、まさに「ガーネット」の名に相応しい。 粉雪にかかれば勝利を導く赤い王冠がたちまち芽吹く。 ぽちゃん 赤いキャンディが沈み蜜がガーネットに染まり出す。 次に「アクアマリン・ブルー」。 ブルーハワイ、スカイブルー等呼び名が色々あるらしいが青いやつだ。 クラゲが浮く前の海に潜り、太陽の光が泳ぎ回る水面近くの海水を材料にした一品だ。 味は例えようがないが、他の店と比べて少しだけしょっぱいかもしれない。 粉雪にさぁっとかけられた青は、たちまち氷を溶かして夏の海へと誘う。 ぽちゃん 青いキャンディが沈み蜜がアクアマリンに染まり出す。 その店では緑色の蜜は二種類ある。 その内の香りがとても強い方が「ジェイド・メロン」だ。 アクアマリンとジェイドは常に二番を競っている。 ジェイドとは翡翠を意味する緑色だ。 もうひとつ、同じように緑色の蜜があるのだが、そちらは「エメラルド・アップル」という。はっきり言って、色自体は区別がつかないほど同じだ。 それでも、ジェイドとエメラルドというように別の緑色を蜜の名前にしたのには理由がある。 翡翠はカワセミという鳥の別名でもある。 背中が青く、お腹がオレンジの小さい鳥。小さい割にくちばしが長くて、よく魚を捕りに行くときに連れていってもらう。私は全く捕れないが、彼らは実に巧く魚を捕っていく。 話は逸れたが、ジェイド・メロンには実は二種類のメロン果汁を使用しているのだ。 緑色のマスクメロンと朱色の夕張メロン。両方の果汁を均等に混ぜ、材料としたこの蜜はとてもとても香りがいい一品だ。 味はメロン。この一言に尽きる。 ハチミツきゅうりとか言うな。 メロンだ、メロン。 粉雪の上に香り高く翡翠が翼を広げる。 ぽちゃん 翠のキャンディが沈み蜜が翡翠に染まり出す。 緑色の蜜、二つ目は「エメラルド・アップル」だ。 ジェイドほど香りは強くないが、見た目が本当にジェイドとそっくりなのでエメラルドが食べたい時は注意してもらいたい。 赤いリンゴ畑の片隅にひっそりと佇む青リンゴの実を材料にしたさっぱりとした一品だ。 色は青くはないぞ? 味も香りも控えめ。 禁断の果実に手を出すより、禁じられていない果実をたくさん食べたいと妖精である私は思うのだよ。 粉雪に緑色が広がれば、一面に爽やかな草原が息を吹き返す。 ぽちゃん 緑のキャンディが沈み蜜がエメラルドに染まり出す。 残った二つの蜜はきらりと輝き、なぜか猫を思い出す。 タイガーアイという宝石があるのだが、猫の目に似ていて、二つの蜜が隣合っているのを見ると思わず店の入り口を見てしまう。 ここ最近、あまりの暑さに近所の猫たちが氷を催促しにやって来るのだ。 おい、こらそこ。 勝手に入ってくるな。 裏口で待っていろ。 後で氷を浮かべた水を持っていってやる。 …ごほん。失礼した。 次はクセになる「スフェーン・レモン」。 スフェーンは黄色系の宝石なのだが、ダイヤモンドさえびっくりの分散率を誇る石だ。 光を通せば石の中で虹のように分かれて、ぴかぴか輝くのだ。 太陽の輝きを受けたきらめく黄色をイメージしてみた。 レモンをまるまる一個材料にした一品だ。 今は薄くスライスし砂糖に浸けて冷蔵庫に眠らせている。ビタミンCがたくさんいる。 酸っぱいが、暑い夏の日やけに食べたくなる時がある。1度砂糖浸けにしてあるので食べやすい。 黄色が粉雪の上で更に輝きを増す。 ぽちゃん 黄のキャンディが沈み蜜が輝きを放ち出す。 暑く暑い日には本領発揮、「アンバー・マンゴー」。 アンバーとは琥珀のことだ。 琥珀は樹脂の化石、つまり元は樹液である。とろっとろのハチミツやメープルを連想するあまーい橙色をしているその蜜は、フルーツの甘さが際立っている。 太陽の恵みを受けて育てられた大切な完熟マンゴーを、農家のおじ様直々の許可を頂きもぎ採ってきた。蕩ける至高の一品だ。 味はもちろん本物の果実に劣るはずがない。 粉雪に橙をとろりとかければ、閉じ込められた時間が動き出す。 ぽちゃん 橙のキャンディが沈み蜜が琥珀に染まり出す。
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