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「ねえ牛丸くん。お腹空いてない?」
「そうだな。ジム終わりだし」
「オススメのお店あるんだけど、一緒に行かない? あ、でもボクサーって減量あるからダメかな?」
私は不安げな表情を作りうつむいた。
「いやいやいや。大丈夫大丈夫。行こう行こう」
「ホント? じゃあ決ーまり」
私は満開の笑顔を見せた。
これは必殺ギャップスマイルだ。ずっと笑顔ではその笑顔の値打ちがさがってしまう。そこで、笑顔を見せる少し前には、あえて暗めの顔を用意しておく。笑顔は大事だがその効果を最大限に活かすテクニックはもっと大事だ。
私は牛丸の手首を握って、「案内するね」と先導した。彼の頬はライチのように赤く染まった。
十五分ほどでそのお店に着いた。ファッションビルの三階にある店で、500円均一のピザ屋だ。リーズナブルなのに高級感のある内装をしている。高い天井にはシーリングファンが優雅に回っている。
店員さんも白シャツに黒のパンツというシックなスタイルで、顔が整った若い男女のスタッフばかりだった。
半個室に通された。半円のソファー席のため、自然と体と体が近づく。私はさらに体を牛丸にくっつけた。
テーブルの上のキャンドルが優しく揺れている。
「オシャレな店知ってるんだな」牛丸はきょろきょろ店内を見回している。
「前にお姉ちゃんと来たことあってね」
今回の作戦のため、姉がこの店を紹介してくれた。店長とも仲が良いらしい。
「牛丸くんってすごい強いんだよね」
「まあ、喧嘩じゃ負けたことはないかな。へへ」
「すごーい。校内で負けたことないって聞いたことある」
「でも、ただ一人だけ黒星をつけたやつがいる」
「え、そうなの? だれだれ?」
こんなムキムキの喧嘩バカを倒したなんて一体誰だろう。ボス猿の加藤だろうか。
「そんな話はいいじゃないか」
「そうね、とりあえず注文しようか」
マルゲリータピザとシーフードピザを注文して、ジンジャーエールで乾杯した。
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