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帰宅してシャワーを浴びた。45度のお湯。つねられたようにイタ熱い。それでも全身をゆだね続けた。
悔しさで涙が止まらなかった。でも、やつらに仕返しをする勇気もない。誰かに打ち明ける勇気もない。逃げ出す勇気すらない私は、凄惨な現実を指をくわえて黙って受け入れるしかないのだ。
早く高校を卒業したい。卒業してしまえば、もう会わなくてすむ。新しい人生がはじまる。だから、それまでは我慢しよう。
シャワーを終えて、寝る支度をした。時刻は、深夜二時を過ぎていた。
寝るか……、と自分の部屋に入ろうとした時だった。玄関がガチャゴチョと乱雑に音を鳴らした後、勢いよく開いた。
「たっだいまー! よう妹よ、今帰ったぞ」
姉だった。
アイーンと志村けんの真似をして、ニコっと笑って、スキップしながら近づいてくる。
姉、富永麗子。仕事終わりというのにこの明るさは、とにかく明るい芸人さんも顔負けだろう。安心してください、もちろん姉も履いている。
姉は私の顔をのぞきこんでいった。
「どったのー? 徹夜明けのツタンカーメンみたいな顔してさ」
ドテッ……私はこけた。
「誰がおでこにコブラのっけてるのよ」
「いやいや頭じゃなくて、その目の下のくまと、顔中に広がる悲壮感よ」
姉は話をしながら着替えを始めた。
「どうしたのよ? 何かあった?」
わりとマジメな表情。
「いや……そのう」
私はいい淀んだ。イジメのことをいうかいわまいか、迷った。
「なんていうか……そのう」
「なんていうか……そのう」姉が口調をそろえる。
「ちょっ、マネしないでよ」
「ちょっ、マネしないでよ」
「もう寝る!!」
「もう寝る!!」
私は身を翻し部屋のドアに手をかける。
「 あーあーごめんごめん」
慌てて姉が私をひき止める。
「ごめんってば。でもさ、たった二人きりの家族じゃないの。ちゃんと打ち明けてほしいな」
ピンクのモフモフのパジャマに着替え終わった姉は、ホットミルクを二人分作りだした。
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