2/3
110人が本棚に入れています
本棚に追加
/56ページ
帰宅してシャワーを浴びた。45度のお湯。つねられたようにイタ熱い。それでも全身をゆだね続けた。  悔しさで涙が止まらなかった。でも、やつらに仕返しをする勇気もない。誰かに打ち明ける勇気もない。逃げ出す勇気すらない私は、凄惨(せいさん)な現実を指をくわえて黙って受け入れるしかないのだ。  早く高校を卒業したい。卒業してしまえば、もう会わなくてすむ。新しい人生がはじまる。だから、それまでは我慢しよう。  シャワーを終えて、寝る支度をした。時刻は、深夜二時を過ぎていた。  寝るか……、と自分の部屋に入ろうとした時だった。玄関がガチャゴチョと乱雑に音を鳴らした後、勢いよく開いた。 「たっだいまー! よう妹よ、今帰ったぞ」  姉だった。  アイーンと志村けんの真似をして、ニコっと笑って、スキップしながら近づいてくる。  姉、富永麗子。仕事終わりというのにこの明るさは、とにかく明るい芸人さんも顔負けだろう。安心してください、もちろん姉も履いている。  姉は私の顔をのぞきこんでいった。 「どったのー? 徹夜明けのツタンカーメンみたいな顔してさ」  ドテッ……私はこけた。 「誰がおでこにコブラのっけてるのよ」 「いやいや頭じゃなくて、その目の下のくまと、顔中に広がる悲壮感よ」  姉は話をしながら着替えを始めた。 「どうしたのよ? 何かあった?」  わりとマジメな表情。 「いや……そのう」  私はいい(よど)んだ。イジメのことをいうかいわまいか、迷った。 「なんていうか……そのう」 「なんていうか……そのう」姉が口調をそろえる。 「ちょっ、マネしないでよ」 「ちょっ、マネしないでよ」 「もう寝る!!」 「もう寝る!!」  私は身を(ひるがえ)し部屋のドアに手をかける。 「 あーあーごめんごめん」  慌てて姉が私をひき止める。 「ごめんってば。でもさ、たった二人きりの家族じゃないの。ちゃんと打ち明けてほしいな」  ピンクのモフモフのパジャマに着替え終わった姉は、ホットミルクを二人分作りだした。
/56ページ

最初のコメントを投稿しよう!