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――これが私? で、私がこれ?
鏡に映る自分の姿に、私はあごを外しかけていた。まるで別人……。女は化ける――というが、これは別次元だ。カラスが白鳥に、いや、ペガサスに変わったようなものじゃないか。
「うんうん、変身の術成功ね。キュート!」
姉はご満悦な表情で何度もうなずいた。
逆ハーレム作戦のため、まず私のビジュアルを改革しようとなった。
その最初として、彼女の勤めるキャバレークラブに私を連れていった。初めて入るキャバクラにとまどいながらも、メイク室に入った。化粧品やら強烈な香水が混じった鼻に優しくない香りに、私はしばらく顔をしかめていた。
さすがはナンバーワンキャバ嬢様。メイク、ヘア、ファッションのスタイリストを、三人もお抱えしている。一流のスタイリストによって、今私は見事な変身を遂げた。石原さと……、長澤まさ……、広瀬す……うん、この清純なラインナップに並んでも遜色はない。いや、あまり調子に乗るとしっぺ返しをくらうのが人生の常なので過度な自信はやめておこう。まあ、でも、ティーンズのモデル雑誌の表紙を飾ってもオーケーだろう。
「どう? 今の気分は」
「自分じゃないみたい。キレイ……」
「眼鏡からコンタクトに変えるだけでもイメージちがうもんね」
「確かに……うん」
「前がすこぶるダサかったもんねー」
「ちょっ、ひどいそれ!」
「うそうそ、ジョーク。でもさ、女はいつだって生まれ変わることができるってことよ」
私は私を見た。
別人だ。
確かに前はダサかった。髪の毛はヅラをかぶっているように不自然で重たかった。小さな丸眼鏡はジョン・レノンを連想、いやイマジンさせていた。眉毛やうぶ毛の処理も怠っていた。ファッションに関してはコガネムシがとまりそうなほどの地味さで、欽ちゃんの仮装大賞なら演目『歩く木』で出場できそうなほど色味がなかった。
「聖子の場合、マスクメロンもご立派に育ってるしね」
姉は、サマーニットに膨らむ私の胸をつんつんとつついた。
「ちょっとー、おねえたーん」
「うふふふふ。D? まさかE?」
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