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「え、久重?なんでここに…」 思わず呟いてから急いで鞄からノートを取り出した。文字を綴っていれば、久重の方が先にノートをかざす。 『会いに来ました。すみません、今大丈夫ですか?』 久重にしては珍しく不揃いな文字。珍しいその文字に彼が急いでいるのだと感じた不破は「もちろん」とゆっくりと口を動かした。 『どうしたの、急に』 すぐ近くのカフェ。向かい合って座った久重に顔が自然と綻んでいる。 わざわざ会いに来てくれるなんて、喜ぶなって言う方が無理な話だ。 単純な自分の思考に呆れつつ不破は久重を見つめた。机の端に置かれたノートに伸びた手が、どこか躊躇うように動く。 『お邪魔してすみません』 謝罪から入った言葉。続きを待つように久重の顔を見つめれば、困ったように笑いながら手を動かした。 『何日も会えなかったので…それと、』 「それと?」 そこまで書いて久重の手は止まってしまった。 何と聞けば良い? 不破に会えばモヤモヤが消えると思ったのに… いや、彼を見た時は確かに消えたんだ。 けれど… 会社の外で待っていた自分が見たのは、女性と親しげに会話している不破の姿。ごく普通の、当たり前の光景なのに…それが何故か自分の心に重くのし掛かっている。帰ろうかとも思ったが、不破が女性に手を挙げて別れているのを見て思い止まった。 「久重?」 首を傾げるその様子に心臓がズキッと痛む。 自分を見つめてくる不破の視線から隠れたいような、その瞳にもっと映っていたいような…不思議な気分に久重は胸を押さえた。 考えたところでどうしようもない。 ここまで会いに来たのだ、素直に伝えたいことを綴ろう。 『不破さんの顔見たら安心しました』 「え…」 『この間、何か様子が違うように感じたので』 「っ、」 躊躇いながらも綴った言葉を見せれば、不破は言葉を失った。次いで顔を片手で隠すとそのまま固まってしまう。 「ふあ、さん…?」 音がない世界の中、表情も口も隠されると何も分からない。彼が今唸っているのか溜め息を吐いているのか…それすら分からなくて久重はゆっくりと不破に手を伸ばした。
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