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カッコ悪ぃ。
久重があの時の自分を気にかけてくれていたことが、こんなにも恥ずかしい。
目の前で友人と親しげに手話で会話をしていた、ただそれだけのことに疎外感を感じて。
自分以外の人間と楽しそうにしているその様子に嫉妬して。
それを隠しきれずに態度に出してしまい、久重に心配かけるなんて…穴があったら入りたいくらいだ。
だけど…それ以上に何がカッコ悪いかって、同様に『嬉しい』と感じていることだ。
気にかけてくれて、会いに来てくれて嬉しいとか、ほんとどうしようもない。
なんだこれ。
構ってちゃんかよ、俺。
「う゛~…」
顔を隠して唸っていれば、手首にソッと触れる温かい手。
「ふあさん、あおみえて(不破さん、顔見せて)」
控えめに告げてくる声に不破はゆっくりと顔を上げた。そこには心配そうに見つめてくる久重の綺麗な顔。僅かに揺れる瞳に自分の姿を確認して一気に顔が熱くなった。
耳まで熱い、ぜってぇ真っ赤だ俺。
「あいあとう(ありがとう)」
微笑みながらお礼を言われる。
「待って」
触れていた手が離れて行こうとするのを咄嗟に掴んで引き留めた。「ふあさん?」と不思議そうに瞬きする久重の細く白い手。
自分より少し小さな手が堪らなく愛しい。
この手が紡ぐ言葉を読みたい。
筆談ではなく、自分の言葉は顔を見つめて伝えたい。
そんな想いを込めて温かな手を両手で包んだ。
『何と言ったのですか?』
「え…?」
片手を不破に掴まれたまま、久重がノートにサラサラと文字を並べた。
『水族館でもこうして手を握られました。あの時、何と言ったのですか?』
「それは、」
不破は僅かに動揺し視線を反らした。
まさか気づいていたなんて。
あの日、幻想的な水槽に魅入っていた久重。水槽に映るその姿はどこか儚げで、胸が苦しくなるほど綺麗で。
水槽に添えられた手に手を重ね告げた言葉。
それは久重が聴こえないと分かっていたから口にした本心。
「…………」
真っ直ぐに向けられる久重の視線。
『外、出ようか』
不破がノートにそう綴ると、久重はゆっくりと頷いた。
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