童話『王様と料理人』

1/1
29人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ

童話『王様と料理人』

 昔々ある森の奥深くに小さなお城がありました。そこには王様とお妃さまが仲良く暮らしております。王様は美しいお妃さまのことが大好きでした。でもお妃さまは心の醜い女性でいつも弱い者いじめをしています。でも王様はそんなこと知りません。  ある日、お城に魔女がやって来て一晩泊めてほしいと王様に頼みました。王様は快く頷きましたが、お妃さまは魔女を汚らしいと言って追い出しました。魔女はため息をついてこう言いました。 「外側の美しさなど一時(いっとき)のもの。それを(おご)るは愚か。それに惑わさるるも愚か」  王様は怒って魔女をひどく痛めつけて追い出しました。その時魔女はうっかり小さな瓶をお城に落としていきます。その小瓶には“腐らない水”と書かれていました。なるほど確かにその水に入れたものは腐りません。王様はその小瓶を城の料理人たちに与え、食べ物を保存するのに使わせました。  やがて時が流れ、無情にもお妃の美しさは少しずつ損なわれていきます。王様は悩みました。すると、新しくお城に招かれた王様お気に入りの料理人がこう言います。 「お妃さまを“腐らない水”に入れましょう」  と。  王様は満面の笑みで賛成しました。そして料理人はよく研いだ包丁でお妃の首を切り落とすと大きな大きな水槽にいれました。そして“腐らない水”の小瓶を振って水を入れていきます。とても小さな瓶なのに不思議なことにどれだけでも水は出てきます。  トクトクトクトク……。  やがて水槽は“腐らない水”でいっぱいになりました。王様は毎日満足げに水槽を眺めています。ところがある日王様は料理人を呼び寄せこんなことを言いました。 「水槽の中にひとりぼっちじゃ可哀想だ。誰かの首をはねてこの中に入れてやれ」  と。  料理人は(うなず)くと、持っていた包丁で王様の首を切り落とし無造作に水槽に放り込みました。 「ほうらこれでもう寂しくない」  料理人はにニタリと笑うとあら不思議、魔女の姿になりましたとさ。  おしまい
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!