1.せめて…

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「我が主さんよぉ。 ここは俺ァ把握済みだ。 王立騎士団が包囲しているぜ。 大人しく連行されるんだなァ。」  レイモンドは耳を手のひらで塞ぎ言う。 「あーあー聞こえませんよー」 「そんな悪い子ちゃんには俺ァの息子を、我が主さんの後ろに突っ込むぜ。」  確かに過去の恋人とかとそういう行為をしていた時に使ってはいたが、自分はこいつにはヤられたくなかった。 こいつの尋問は“飴と鞭”。 ついでに夜の営みは評判が良いと聞く。 そんな奴に組み敷かれたら快楽攻めだ。  簡単に鎖と手枷を外し三人より何歩か前に出ると、俺達に話しかけてきたおっさん含め荷馬車の数より何人か多いくらいのおっさんを手で引きずり、王立騎士団特有の黒い無駄に洒落た格好良い軍服姿の、無駄に顔面偏差値が高い男達数十人が周りの森にある木々や草むらから現れる。  手で引きずっているおじさん等がうめき声すら出さず、痣だらけなのは見なかったことにする。 「ロヴァート様ぁ! いい加減帰ってきてくださいよぉ!」 「あーあー聞こえませんよー」  都合の悪いことはさっぱり聞こえないレイモンド。 ちなみに泣きべそかいて俺の名字を呼んだ奴が誰だか分からない。 「レイモンド様。 あの泣き虫は良いとして、王様も帰ってきてほしいと泣いて嘆いていましたよ。 文官達が陛下に泣きついて王立騎士団が登場という噂もありますし。」 「人と関わるの面倒くさいし。 仕事やんのも面倒くさいから帰らない。」  背後に人が近づいてきた気配に振り返ると、執事の様にきっちりと服を着こなす眼鏡の男が、無表情のまま声をかけてくる。  自分は家出をしてるんだから帰らないとばかりに、白い騎士服のいる方に身体ごと顔を背ける。 「仕方ねぇなァ。 我が主さんの後ろに俺ァの息子を突っ込んで欲しいんだなァ。」  最初に遠回しに帰ろうぜと脅しに使われた言葉を、今度は本気に聞こえる少し低い声で脅してくる。
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