-Begegnung-

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プロローグ  1940年冬、ドイツ南部 ミュンヘンにほど近い都市 アウクスブルグ  もうすぐ新年、今日は聖なる夜クリスマス・イヴ。  この町のどこの商店の軒先にも、聖なる一日を祝うべく鉤十字の旗などと共に、クリスマスのオーナメントが控え目に飾られていた。  店主達のその配慮が、この国が他国と戦争中だからという理由からなのか、或いはナチ党への配慮からなのか・・それは知る由も無い。  それでも、年に一度の神の子の生誕祭を祝おうと、ささやかながらも町全体がクリスマス一色に染まっていた。  夜も更け、ご馳走やプレゼントを買いに繰り出していた人々も、教会のミサに訪れていた家族連れなども皆家路につき、灯りの灯った店舗も随分と少なくなった。  人通りも随分前には絶えてしまった様で、周囲の石畳の上にうっすら積もった雪の上に、野良猫以外の足跡らしきものはおおよそ見当たらない。  真冬の夜の寒さと静寂を肌でひりひりと感じる様になったその頃・・・・。  マクシミリアン通りのアウグストゥス噴水の前で、ペルラッハ塔の時計を見上げる少女が一人。  年齢は13~15歳位だろうか。  身の丈は150㎝弱。  まるで聖夜に降り立った天使のような、おとぎ話の世界からそのまま抜け出てきた妖精のような・・。  美しい、とても美しい金の髪の少女が一人、その広場の真ん中にポツンと取り残されたように立ち竦んでいた。  その少女の美しい金糸の様な髪は、大きな赤いシルクのリボンでポニーテールに結わえられている。  小雪交じりの寒風が彼女に吹きつけると、金の髪が波打つようにふわりと夜空を舞って街灯に照らされ、きらきらとさながら宝石の様に美しく輝いた。 d2924f6f-a972-40c4-99cf-cb3a2d31414a  美しいトルマリンの瞳がじっと見上げる塔の時計は、既に9時を回っていた。  どう考えても、今は彼女のような齢若い少女が一人で出歩く様な時間では無い。  時折、彼女の近くまで見兼ねたオルポ(警察官)が向かって行くのだが、一定の距離まで近づくと皆、踵を返して立ち去って行くのだ。  オルポはある一定の方角に視線が向くと、飛び上がる様に身体をビクンと揺らし、そのまま素早く退散してしまう。  彼女はその光景をもう既に三度は見ていた。  そんな彼等が、退散する直前に何に目を止めたのかも彼女は知っていた。  しかし、幸か不幸かそのお陰で彼女は誰にも邪魔される事無く、一時間程前からずっとそこに立ちつくしたままで居られたのだった。  言うまでも無く、彼女は誰かをじっと待っていた。  先程まで止んでいた雪が、また静かにゆっくりと降り始める。  雪は少女にも容赦なく降り積もる。  髪に、肩に降り積もった雪を、水晶の様に白く細長い指で払い除けると、少女は大きく溜息を一つつき、コートのポケットからスカーフを取り出して頭巾のように頭に被り、風に飛ばされぬ様顎の下でキュッと強く結んだ。  彼女は去り際にちらと、その視線を薄暗いはす向かいの路地裏に向けた。  スッと黒い影が動いた様な気がした。  しかし彼女は・・それを気に留めるような素振りを見せる事は無かった。  その細く小さい脚は、南の住宅街の方に向かって歩き始めた。  彼女の足取りに迷いは無かった。
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