-Begegnung-

4/21
前へ
/21ページ
次へ
<3>  あの去年の・・雪のちらつくクリスマスイヴの夜。  捕らえられた時の記憶は断片的だ。  朧気に覚えているのは、とにかく車に乗せられた事。  頭から血を流し、意識も無くぐったりしていた自分を、まるで鞄などの日用品でも扱うかの様に、彼等は車内に放り込んだのだ。  遠い意識の中でも、流石にあれは(あんまりだ)と憤慨した記憶がある。  そもそもそれ以前に、何度も頭と身体をぶつけていた為、酷く頭部から出血していた事、身体中が打撲と擦り傷で数日間は痛くて堪らなかった事。  小さな火傷も数か所していた。  普通の人間ならとっくに死んでいるかも知れない、それ程の重症だった筈だ。  しかし、”貴方は自分自身が医者なのだから””時間なら移動の合間に幾らでもあるのだから”と、治療は総て怪我をしている自分自身でやらされた。  だから、あれ程の重傷にも拘らず、医者にも診て貰った記憶が無い。  そもそもだが・・(恐らくあのイヴの夜は)脳震盪を起こしていた為、あれから数日間の記憶は殆ど残っていない。  しかも、捕えられて暫くは薄暗い部屋に閉じ込められていた。  それが数週間だったのか、もっと、だったのか・・・・。  私物の時計まで取り上げられていた為に、あれが幾日だったのか、いまだに見当がつかない。  ただ、暗がりの中でさえ常に憎々し気に自分を睨みつけて来る男の顔だけは、覚えたくなくても覚えてしまっていた。  そして、その執拗に睨みつけて来る男の名は・・・確かレドラーとか云った筈だ。  その感じの悪い中年の親衛隊員は、やたら鼻につく物言いをいちいちして来る。  あの夜・・その男の指揮の元、汽車を乗り継いで連絡船の停泊地であるイタリアの港まで移動したらしい。  そして、母が切符を用意してくれた船へ、ナチスに厳重に警護されながら乗船した。  ・・・と後日、彼等の会話から知り得た。  東の果て、中華民国の上海までの連絡船には、自分一人で乗船のはずだったのだが・・・。  何故か一等船室の一人部屋が、最上級のスイートルームにすげ替えられている。  そして、同室にはスーツこそ着てはいるが、明らかに軍人とわかる頑強な体格の若い青年達が常時5人程詰めていた。  恐らく彼等は全員親衛隊員だろう。  皆一様に金髪碧眼で背が高く、容姿が見事に整っている。  そこで目にするどの青年も、眉目秀麗なイケメンぞろいだ。  だからこそ、そこで先ず疑問なのは、彼等の上官である筈のレドラーの容姿は・・お世辞にも整ってはいない事。  しかも、やや曲がった猫背は彼等より少し低く・・175㎝も無いのでは無いだろうか?  靴を脱ぐと、もはや170すら無いように見える。  腹はポッコリと飛び出ていて、見事な中年オヤジ腹だ。  髪も茶色、目は薄暗い灰色の藪睨み、いつもムスッと・・何がそんなに面白くないのか、ふて腐れたような顔をしている。  若い親衛隊員たちが、笑いながら部屋の隅でポーカーやチェスなどのゲームに興じていても、レドラーは決してその中に混ざって行こうなどとはしない。  一人いつもふんぞり返り、私の隣で椅子に腰かけ、私を監視する振りをして何かを口にするチャンスを常に窺っている。  私は彼のその意地汚さと仏頂面が心底大嫌いだった。  おまけに・・彼の周囲を容姿の整った者達が固めている為、どうしてもレドラーは更に不細工に見えてしまう・・悲しい事だが。  重ねて、彼は心の方も・・お世辞にも美しいとは言い難い、醜さを感じさせる。  目を覚ましてからは、ずっと「本当にこの男は選ばれた親衛隊員なのだろうか?」と 疑問に感じる事ばかりなのだ。  そしてそれ程までに大嫌いな男が、今も隣にずっと貼り付いたように居座っている。  そんな状況が彼等に拘束されてから今迄続いていた。  ・・要は今、自分はナチスに捕らえられ、監禁・護送されているという事である。  それにしても・・母はあの時、どうにか逃げ果せたのだろうか。  今監禁されているのはどうやら自分一人らしい。  黒服達の噂話にも、母の事は上がって来はしない。  (母様は怪我をなさらなかったのだろうか・・)  自分はあの時、かなり酷い怪我もしていた。  それは主に、目の前の男とその部下に車で追い回された挙句、殴打されて出来た傷だった筈だ。  しかも、殴ったのも蹴ったのも、暴力は総てこの不遜な中年男だ。  最初の数日は、余りの激痛で体を動かす事が辛くて仕方がなかったが、移動に次ぐ移動を経験しているうちに、いつしかどの怪我も完治してしまった。  この忌まわしい身体は、少しの怪我位なら見る間に直してしまう。  あれだけぱっくりと傷口の開いていた頭部の裂傷も、数日で傷口はある程度塞がってしまっていた。  しかし、あまりの深手だった為に、やむなく縫い合わせたのだが・・・。  流石に麻酔無しで、鏡を見ながら自分の怪我を縫うのは辛かった。  今思い出しても、涙が出そうになってしまう。  (良く・・耐えているのだな、私も)  あれから何日、いや何週間、それとも何カ月経ったのか・・・。  尋ねたら、この自分の向かいの椅子に座り、テーブルをバンバン叩きながら部下を顎でこき使うこの男は、私の問いに答えてくれるのだろうか?  否、多分それは絶対ないだろう。  (何故なら、彼は私を憎悪しているから)  この男のギョロッとした目は、いつも自分に好意的ではない。  この船はユダヤ人達がナチスのホロコーストから逃れるため、大勢乗船している客船だ。  そこにナチスの関係者が自分を引き連れ、外交特権という権力を行使して乗り込んだ。  表向きは・・貴族である自分の監視と護送という任務の為に。  しかもこの立派な部屋は、レドラー少尉が  「もっと身分の高いドイツ貴族にふさわしい、立派な船室をあてがえ!」  と船長に掛け合って無理矢理用意させたらしいのだ・・。  その事は乗船してしばらくしてから、彼の部下たちがひそひそと噂話をしていたのを聞いた。  しかし、だと云うのなら一つ文句を言いたい事がある。  そもそも貴族制度を廃止したのは、ナチスでは無かったのか。  それなのに、辺境伯であるこの私の身分を振りかざして、理不尽を押し通すというのは・・横暴以外の何者でもないと思わないのだろうか。  それ以前に、彼等に同乗してくれと頼んだ覚えはないと云うのに。  (私のせいで、この部屋に泊まり快適な船旅をする筈だった誰かに、心底不快な思いをさせてしまった・・)  恐らくは満室であったこの船の中で、この部屋ではそれ相応の人物が寝食を行う筈だっただろう。  その部屋を奪い取る形で、今はこの大きな部屋に監禁され、彼らの監視下に居るのだ。  その他大勢の乗客も、自分一人のせいでどれだけ不快な思いをしている事だろう。  その事に思いを馳せると、申し訳無さでどうにもいたたまれない。  そして何より、他の乗客から自分もこの連中の一味だと思われている事がどうにも辛かった。  それでも・・そんな思いをしてでも、あの男に会って訊きたい事があるのだ。  ただそれだけの為に、今自分は恥を忍んで此処に居る。  「何故、あんな事をされねばならなかったのか」と。  「何故、”あの時”、”私”だったのか」と。  あの時あの男は、あの行為を”実験”だと、”研究”だと私に告げた。  よもや、母が別れの前に言っていた「ヘヴンズゲイト」という言葉と関係あると云うのだろうか?  だとしたら・・・あんな淫らで野蛮な行為が、どんな実験や研究と結びつくと云うのだろうか。  まさか・・・その一件に、この身体の事なども絡んでいるのだろうか?  そして・・・・・あの事も。  彼はそもそも、何を何処まで知っていたと云うのだろうか?  しかし、所詮それも・・あの男の口から出たでまかせ、与太話なのかも知れない。  だとしても、やはり気になるのだ。  そして、あの時感じた違和感。  「貴方は一体、何者なのか」と。  あの時感じた・・・人ならざる者のような気配。  人であり、人では無い何か。  だが、それは感じたり感じなかったりした。  まるで・・同じ人物が二人いたかのような錯覚。  自分でも、相当おかしな話だとは感じている。  もし他人に話したとしても、「ショックで気が触れてしまったのだろう」と思われてしまうだけだと思う。  そしてやはり、あの時受けた屈辱的な事・・あんな事をされた理由が解らない。  少なくとも、自分の見知っている彼は、どうやってもあんなことを望んでする人物とはとても思えなかった。  普段は幾らか口下手で不器用、我儘で自己顕示欲が強く尊大な所もあったが、それでも思いやりも気遣いも感じられる、普通の青年だった筈だ。  だがあの時・・自分を辱めたあの男は・・・どんな汚い事にでも手を染め、むしろそう云う事を率先し嬉々としてこなす、冷酷非道なモンスターとしか感じられなかった。  あの時自分を酷く凌辱した獣の様な男と、自分を”友人”として扱い、いつも自分の隣にいた不器用で物静かな男。  一体どちらが彼だったのか?  それとも・・・どちらも本物の彼だったのか?  一体・・・何が望みだったのだろうか?  何がしたかったのか?  少なくとも・・強姦と凌辱だけが目的では無かった筈だ。  ・・・本当に、彼はあんな男だったのだろうか?  知りたい。  彼に直接会って聞きたい。  どうしても、何を犠牲にしてでも。  一番の当事者であったにも拘らず、自分はあの時の事を未だ何一つ知らないままだ。  だからこそ大きな犠牲を払い、周囲に迷惑を掛けてまでここまで来たのだ。  東の外れの小さな島国、彼の母国・・日本まで。  会える保障など無い。  小さな島国と云っても、彼を見つける事は容易ではない筈だ。  今ですら、自分はナチスに捕まり逃げる事も出来ない船の上なのだ。  先行きには・・不安しかない。  それでも。  だが、今から行く国の言葉を勉強するため、この状況から意識を反らす為に・・今読んでいる本に目を落としながらも、どうしても気が重くなり、溜息が漏れてしまう。  「・・・・・・ふぅ・・・」  吐いて出てしまった溜息に、レドラーが食いついてきた。  いつもなら絶対自分に向けて笑顔など作らない、嫌味で意地悪な男が揉み手をしながら・・この満面の笑顔である。  「おやおや、お疲れですか?そろそろティータイムにしましょう。・・おい、そこのお前!今すぐルームサービスでいつもの紅茶をご用意しろ!いいか、俺のコーヒーも 忘れるんじゃないぞ!!」  命令を受け、スーツの男の一人が慌てて部屋を飛び出していった。  一日に数回は行われるその光景にアルフレヒドはうんざりし、顔を顰めた。  (この男は何かあるとすぐ、私を出汁にして口にする物を用意するな・・・。私は ただ、一人の時間が欲しいだけなのに)  また、小さく溜息が出てしまった。  ものの数分で、先程出ていったスーツの男が給仕の女性と共に帰って来た。  女性はワゴンを引いており、彼女の引いて来たワゴンの上の綺麗なナフキンの下から、いつものアールグレイとコーヒーの香りがした。  レドラーは、  「給仕はいつも通り自分でやる。さっさと下がれ!」  女性には目もくれず、手でシッシッとやって追い払った。  この渋ちんは、勿論チップなどくれてやる気は毛頭ない。  以前この男は、チップをねだったボーイに銃を突き付けて追い払った事があった。  それからこの部屋では、誰もチップを要求しないのが決まりになっているらしい。  チップどころか、銃で脅されるのを恐れて、皆一様に逃げる様に部屋を立ち去って行くのだ。  この給仕の女性も、ぺこりと頭を下げると・・怯えた顔で、逃げる様に足早に部屋を出ていってしまった。  代わりにスーツの男達が、いつものように手際よくお茶の準備をしてくれた。  彼等が少しでももたつくと、レドラーが癇癪を起して暴れ、皆を殴り倒したり、コーヒーをぶち撒けたりするのだ。  他人事ながら、癇癪の酷い上司を持つと苦労するなとつい思ってしまう。  そのレドラーは、満足げにコーヒーをひと口すすり、にんまり笑うとカップを置き、短い足をどうにか組んで馴れ馴れしく擦り寄って話しかけてきた。  「やれやれ、やっと貴方のお望みの東洋の外れまで来ましたな。私もこの、薄汚い ユダヤ人共で一杯の狭い船からもうすぐ解放されるので、ホッとしておりますよ。貴方もそうでしょう?ミュラー博士」  その一言に、心底腹が立った。  先程までの振る舞い、そして今の下衆な発言。  ・・・自分たちアーリア人が優秀な人種だとでもいうのか。  人間など、男女の違いこそあれ一皮剥いてしまえば付いている物も、血の色も一緒だというのに。  医者である自分にとって、そんな事は基本中の基本だ。  ナチスの親衛隊員は、良家・名家の子息が多いのは知っていたが・・この何かにつけて見下す様な、尊大な態度は本当に許せない。  そもそも本当に優秀な人間は、自分を大きく見せたり、他人を見下したりなど決してしない筈だ。  この船に乗せられた時から、腹の立つ質問や問い掛けには絶対に答えない事にしていた。  だから、  「いいえ」  視線を合わせず、それだけ答えて読みかけの本に目を落としていると、案の定ガターンと激しく音がする程椅子を蹴倒しながら立ち上がり、レドラーは真っ赤な顔をしながらつかつかと詰め寄って来た。  そしてアルフレヒドの胸ぐらを思い切り掴み上げて、  「本ッッ当にいちいち癇に障る人形だなッ!さすがは爵位を金で買うような下品な父親と、汚らわしい娼婦のような母親から産まれた出来損ないだなッ!!この・・上からの命令さえ無ければ、貴様なんぞさっさと撃ち殺して、海に投げ込んで鱶の餌にしてやれるのに!!!」  そう言い終わるや否や、胸ぐらを掴んだ手ごとすぐ後ろの壁に激しく打ち付けた。  「げほっ・・うッ・・・」  思わず息が詰まってむせ、咳き込んだ。  アルフレヒドは苦悶の表情を浮かべ、呻き声をあげながら、何とか手を振りほどこうとレドラーの腕にしがみつき、爪を立てようとするが。  レドラーはニヤリと笑うと、そのまま壁伝いにぐいとアルフレヒドの身体を押し上げた。  「あ・・・っ・・」  首が締まり、息が出来ない。  もがけばもがく程、締め上げる力が強くなる。  意識が遠のき始めたその時、手が急に離れ、その身体はズルリと崩れ落ちた。  壁に髪を結わえていたリボンが引っ掛かり、解け、金の髪が肩口にふわりと広がった。  「ゲホッ、ゲホ・・」  壁に背を向け、首に手を当てて咳込んでうなだれるアルフレヒドの横にレドラーはしゃがみこみ、その手で彼の顎をグイッと持ち上げ、まじまじと見据えながら、呟いた。  「本当に、不気味な程、美しい。いや、本当に美し過ぎて気味が悪い。貴殿が本物の女性だったら、この船旅もさぞかし楽しいものとなったであろうに。残念な事だが、私にそっちの気は無いのでね。・・・いやはや本当に残念だ、フフッ」  レドラーの歪に歪んだ感情と、それを体現したような嫌らしい笑顔に虫酸が走る。  秋波を送られたような気がして、寒気を覚えた。  反射的に顎に当てられた手を払い除けて、キッと睨みつける。  途端にレドラーはわなわなと身を震わせ、怒りをあらわにした。  ぐいと顎を鷲掴みにして、払い除けた方の腕を更に掴み、アルフレヒドを床に押し倒した上、馬乗りになって睨みつけて来た。  「いちいち私に逆らうなぁ・・・?そんなにお望みなら、旅の記念に遊んでやってもいいんだぞ?何と云っても男は遊んでも罪にも問われんし、腹も大きくならんしな!」  薄汚い言葉を吐き捨てると、無理矢理何度もキスをしてきた。  「止め・・何を・・・ッ!」  口腔に執拗に舌をねじ込み、何度も舐め回して来る。  うっすらと生え始めた髭がチクチク頬に当たり、嫌悪で寒気がする。  しかし・・這い回る舌が、絶叫したくても言葉を紡げなくしてしまう。  「う・・んん・・・っ」  レドラーの唾液と漏れ出る吐息からさっきのコーヒーの味がして、気持ち悪くて何度も吐きそうになった。  「・・んっ・・んんっ・・んむ・・っ・・」  身を捩ると、無理矢理膝を割って足を股間にねじ込んで来た。  「何だ、もう欲しくなったのか?ハッ・・とんだあばずれだな」  レドラーの太腿が、何度も絡み付いて股間を愛撫して来る。  その内にレドラーの股間が固く、大きく膨張して来て、更に執拗に太腿に擦り付いて来た。  (この男は、本気で私を犯す気だ・・・・・)  「・・んーっ・・・」  恐ろしく強い力で組み敷かれ、全く抵抗も出来ない。  周囲を何時しか若い親衛隊員達が取り囲んでいた。  皆長い船旅で欲求不満だったのか、目つきがやたらに鋭く、レドラーの行為を止める事無く真剣に見入っている。  彼等の心に今、”助ける”などと云うキーワードは存在しないだろう。  それに気を良くしたレドラーが、行為を続行しながら饒舌に口を開く。  「ハハッ、貴様もまんざらでもないんだろ?この好き者が!何せ会った時からずっと女装のままだしなぁ・・この変態は!しかもわざわざ自分を強姦した東洋人の男を追いかけてこんな辺境の国まで来たって話だしな!!本当はこうして欲しかったんだろう?なあ、お貴族様!はっはははは!!」  「ちっ・・違・・・・んっ・ああっ・・・!」  首筋に舌を這わされて、精一杯の力で身を捩り、逃れようとするが・・押さえつける腕の力が余りに強くて、どうにも出来ない。  「ひっ!あ・ああ・・!」  鎖骨にしゃぶりつかれ、下着に手を突っ込まれそうになり、必死にもがく。  「素直に言えよ、「気持ちいい、もっとして下さい」ってな!ハハハ!」  こう云う事にならぬ様、彼等に易々と見つからぬ様にと、母がわざと女物を用意してくれたというのに・・。  裏目に出てしまった上、今はむしろ苦境に立たされている。  スカートでは、どうやっても下半身をガードしきれない。  必死で抵抗したものの、どうしても押しのけられず、何度ももがいて足をばたつかせた。  その細く白い脚がちらちらとスカートから覗く度に、周囲から溜息が洩れる。  「・・・離して下さい、この不埒者!」  精一杯、怒鳴りつけたのだが。  「ハハ、威勢がいいな。・・どんな喘ぎ声が聴けるのか、今から楽しみだ。お前達にも後で回してやる。待って居ろ」  レドラーの言葉に、生唾を飲み込む音が幾つも返事をした。  このままでは、最悪の結果が待っている。  ・・この気持ち悪い、不快な男だけを相手にするのならまだしも・・。  この部屋には、未だ5人の若い男が詰めているのだ。  彼等にまで今、身体を弄ばれてしまったのなら・・この先ずっと、護衛に付く彼等に性欲のはけ口として玩具にされる事になってしまう。  しかしどうにかしようとすればする程、スカートがせり上がり、着衣が乱れて来る。  白い太腿や胸の辺りが段々露わになり、厭らしさが更に増す。  先程床に擦り付けられた時に、ストッキングに何カ所か穴が開き、ガーターベルトが片方外れた様だ。  ガーターベルトとショーツがちらりとスカートの隙間から覗いた時には、彼等から小さな歓声が上がった。  「・・すげぇな・・・・」  「うわ、たまんねえ・・・」  「・・これが、ホントに、男なのか・・・?」  急に胸の尖りをつねり上げられた。  「痛っ・・何を・・・!」  「やはり体は男か。胸はこれだけか、つまらん」  ブラウスのボタンも何時の間にか外されていて、大ぶりのフリルをあしらったシルクとレースのセクシーなキャミソールが胸元から何度も見え隠れしていた。  そのキャミソールを力任せにずり下げ、ぷっくりと突起したピンクの乳首にレドラーがむしゃぶりついた。  「嫌っ・・・やめて・・はああっ・・あ!」  痛みと、舌の這う感触が相まって・・堪らず身をくねらせた。  舌先が何度も執拗に、尖った先端をこねては潰す。  もう一方の尖りも、野太い指の腹で転がされ、弄ばれてしまっていた。  「・・あはぁっ・・くうっ・・・・ん・・」  切なくて、身体が引くひくと小刻みに震える。  たまらず、吐息が漏れ出てしまった。  「・・・はああぁぁ・・・・」  「・・・堪らんだろう、もっとしてやる」  舌の動きが、一段と激しくなった。  もう一方の手が、腰を厭らしく這い回りだした。  何処からともなくまた、誰かの溜息と生唾を飲み込む音が聞こえて来た。  しかも・・複数の、だ。  レドラーが行為を止め、ゆっくりと半身を起こした、  「・・さて、そろそろ・・アンタも欲しいだろ?旅の記念にお互い愉しもうじゃないか」  「・・・ッ冗談、止して下さい・・・・・!」  遂にレドラーが、スカートの下のショーツに手を掛けようとした・・その時。  息せき切って、部下と思しきスーツの男が駆け込んで来た。  「少尉、重要なお知らせが入電しております。お取込み中申し訳ありませんが操舵室まで至急お越し下さい」  それが重要な話だと理解したレドラーは、乱れた呼吸と着衣を整えて、  「・・うむ、案内しろ」  そう短く答えると素早く立ち上がり、床に横たわったままのアルフレヒドを見据えてニヤリと笑った。  「・・余り意地を張るなよ?この続きは後で存分にしてやろう、アルフレヒド君。・・・・フフ」  レドラーは舌舐めずりをしながら素早く部屋を出ていった。  アルフレヒドは壁に手をつき、よろめきながらもどうにか身なりを整えようとし、倒れた椅子を立て直しながら急いで立ち上がった。 5441cd5f-03df-462e-a727-f52ae8e49f29  もしもそのまま、床に横たわったままでいたのなら・・そのまま若い親衛隊員の男達に襲われ、輪姦されてしまいそうで怖かったのだ。  射る様な視線を感じて周囲に目をやると、スーツの男達は手傷を負った草食獣を取り囲む獣のような表情で、彼を取り巻いて静かにじっと見つめていた。  本能から、身震いする位の寒気がした。  (このままここに居たら、どうなるか解らない・・・)  だとしても、船の上ではどこにも行ける筈は無い。  今はあらゆる事を諦め、落とした本を拾い上げると、ゆっくり椅子に腰かけて大きく深呼吸をしてから、また本を読み始める事にした。  身体が未だ少し、震えている。  親衛隊員の一人がこぼれたコーヒーと紅茶を下げて、テーブルをきれいにしてくれた。  ・・・厭らしく、蔑むようにニヤリと笑いかけながら。  悔しくて、思い切り叫びたい程の気持ちになったが、堪えてまた本に目を落とした。  本の内容なんか、とても頭に入っては来なかったが。
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!

37人が本棚に入れています
本棚に追加