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「よう若造。船酔いなんかしてねえだろうな?」
「あ、座長」
物思いに耽っていたキルシェのところへ、すっかり「休日モード」といった佇まいのボーデンが気軽に声をかけてきた。
普段は座長と1対1で話せる機会など、キルシェのような下っ端にはなかなか用意されていないため、「クルーズ中は船旅を楽しめ」と事前に言われてはいてもどうしても緊張してしまう。
こんな時こそランケの存在が在り難いのに、いつの間にかいなくなっているし。
「はい。あの、今回はこのような機会を設けて頂き、本当にありがとうございます」
「なに改まってんだよ、今は稽古中じゃないって言ってんのに。でもまあ、お前は可愛げがあっていいな。コイツとは大違いだ」
そう言ってボーデンが肩越しに流し見た先に、―――不機嫌そうに腕組みをして、その人は佇んでいた。
「可愛げがなくて悪かったね。せめて僕が後輩に嫉妬して意地悪する姿を見ないで済むうちにとっとと離れたほうが身のためだと思わない?」
とても聞き流せない恐ろしい台詞が聞こえてしまったが、その瞳はキルシェのことなど一切写していない。
まるでこの場に二人きりしか存在していないかのように、アストはただボーデンのことだけを真っ直ぐに見つめていた。
「ほら、これだもんな。怖いだろうコイツ?」
「あ……えぇと………」
「もういいでしょ! やっと“アイツ”から引っ剥がしてきたのに、なんでそんなガキ口説こうとするわけ?!」
(うわぁ………)
そう。
これがアストの「普段の顔」だ。
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