―ep.1―「大地に生かされている」

1/3
前へ
/25ページ
次へ

―ep.1―「大地に生かされている」

自家用クルーザーというものに、キルシェは生まれて初めて乗った。 上流階級の人間などきっと一生深く関わることはないと思っていたのだけれど、自分の所属する劇団の座長という、意外なほど身近なところにいたものだから、世の中よくわからない。 季節は夏。 太陽に照り返されてキラキラと光りながら揺れる水面は、目に染みるとわかっていてもいつまでも眺めてしまうほどの魔力があった。 この時期を選んでくれたのは、高校生であるキルシェ達2人も問題なく参加できるようにという、座長なりの配慮なのだろう。 「強化合宿」が行われると知らされた時は、まさか自分が参加メンバーに含まれるとは思いもしなかった。 まずジュニア団員が参加できるとは思わなかったし、できるとしてもせいぜいジュニア内のトップであるランケ1人ぐらいだろうと思ったし。 …いや。もしかしたら、本当に参加させたかったのはランケだけで、でも先輩達の中に彼1人だけでは可哀想だからと、おまけで彼の同期で仲の良いキルシェも同行させてくれただけなのではないだろうか。 あぁ、きっとそうに違いない。そんな理由でもなければ、自分などがこの錚々(そうそう)たるメンバーにちゃっかりくっついているはずがない。 そんなふうについつい卑屈に考えてしまうほど、今回の合宿の参加メンバーはキルシェには眩しすぎる顔ぶれなのだ。
/25ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加