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◆◇◆◇◆
「キ~ルシェちゃ~んっ! なぁーに黄昏てんのっ!」
物思いに耽っていた矢先、突然両肩にそこそこガタイのいい男の体重がのしかかってきた。
…ちなみにここは甲板で、キルシェが見ていたのは底の見えない海面で……。
「うわあ~~~っっ!! 落ちるーーーっ!!!」
「落ちねーよぉ、手すりあるもん」
「――っ! ……ランケ…。あ~もう、おまえはこんな時にまでそんななのかよ」
「こんなとかそんなばっかり言われましても」
「………」
「ヤダー、怒んないでよぉ、こんな日にさあ♪」
「…はぁ。ゆっくり考え事すらできやしない」
友人のおまけで参加させて頂けた…と、キルシェ自身は捉えていたが、他の者に言わせればその限りではなかった。
ジュニア団員の仲間達は、トップのランケに次ぐセカンドメンバーは当然のようにキルシェだと思っていたのだから、彼が選抜入りに驚いていることに逆に驚くばかりだった。
それでも尚揺るがないキルシェのどうしようもない自己評価の低さの大半は、その愛らしいベビーフェイスのせいだった。
どれだけ実力があり、それに甘んじることなく努力ができようとも、この顔である限りはどうしても与えられる役に制限がついてしまうのだ。
弟役、後輩役、そして男性劇団であるがゆえに少女役や幼女役まで回ってくることさえある。
「チェリーのKirscheちゃん」。可愛がられることもからかわれることももう境界がよくわからなくなっていた。
(こんな調子じゃ、俺はいつまでたっても劇団のマスコットキャラクターぐらいにしかならないんだろうなぁ)
ため息をひとつ吐くと、キルシェは改めて、座長が自ら選出したという今回の合宿の参加メンバーを1人ずつ振り返った。
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