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春の章「片恋消しゴム」 ③ るりSide
「あ、しまった」
理科の授業も終わって教室に戻り、さてお弁当……となったときに、大切な忘れ物に気がついた。
「どうしたの? るり」
お弁当を持ちながら席に近づいてきた梢ちゃんが、私のつぶやきに反応した。
「ペンケースがないの。もしかしたら、理科室に置いてきちゃったかも」
「あらら、それは大変だ」
しばし悩んだあと、私は顔を上げた。
「ちょっと、取りに行ってくる」
「一緒に行こうか?」
「ううん、大丈夫。すぐに戻ってくるね」
ついて来てもらうのは申し訳ないので断ると「ん、わかった」と梢ちゃんもうなずいた。
私は一人で教室を出ると、パタパタと上履き靴を廊下で鳴らしながら、急ぎ足で理科室へと向かった。
ランチタイムとなった特別教室付近は静かだ。人気のない廊下を小走りに、廊下の先に見えた理科室へと駆けよる。
ガラリと理科室の扉を開ければ、先ほどとは打って変わった、しんと静かな空気が私を迎え入れてくれた。
「あ、あったあった」
さっきの授業で使っていた机を見ると、その上に私のペンケースがあった。お気に入りの、パステルイエローのペンケースだ。近寄って、そのペンケースを手に取る。
(あれ……私、机の上に置いてたっけ? たしか、下の棚に置いたから忘れてしまったような……)
小さな疑問が浮かんだけれど、ペンケースを無事に手に入れられてホッとした安心感のほうが強かった。
この中には、大切な消しゴムが入っているのだから。
(まいっか。梢ちゃんも待たせてるし、行こう)
友人を待たせていることと、ペンケースを取り戻した安堵のせいで、私は気づかなかった。
すんなりと開いた、施錠されていない理科室。その中に誰かが、隠れていたかもしれないなんて……。
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