夏の章「好きと伝える」 ① 悠Side

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「……好きです!」  夏休みをひかえた、七月上旬。  となりのクラスの林に校舎裏へ呼び出された俺は、彼女のその言葉を聞いて身をかたくした。  呼び出されたときから、何となく予感はしていたけれど……実際に言われると、相手の表情から気持ちが伝わってきて俺も緊張してしまう。 「私ずっと、中曽根くんのこと好きだったの。付き合ってください」  林は顔を赤くしながらも、懸命にまっすぐにこちらを見て言葉を続けた。小学校が同じだった彼女。もちろん俺も何度か話したりしたことはあったけれど、まさか好意を持ってくれていたなんて気がつかなかった。  林は可愛い、と思う。小学校のときも、ほとんどの男子は可愛いと思っていたに違いないし、何人かは実際にそう言っていた。  そんな林から告白されて嬉しくないはずもなかったが──でも、俺の心には今、ある人物がずっといる。 「……ごめん。付き合えない」  俺がそう言うと、林は悲しそうな顔をした。唇を噛みしめて「他に好きな子がいるの?」と聞いてくる。ここで嘘をついたりごまかしたりすることは、真剣に告白してくれた彼女に失礼だと思った。  俺は、小さくうなずいた。 「それって、戸田るりちゃん?」 「え!」  ふいにあいつの名前が林から出てきて、びっくりした。な……何でバレた? 自分の顔も赤くなってしまったのがわかった。 「あ、ああ……」 「そっか。昔から、仲が良かったもんね」  そ、そうだっけ?  まぁたしかに、女子の中では戸田と一番よく話していたのかもしれない。  それは無意識に俺も、彼女に好意を持っていたからだと今ではわかる。  彼女の消しゴムを見てあらためて意識したあの日──あれから、俺は戸田を意識しっぱなしだ。それは戸田も、同じだと思う。 「本当……ごめん」 「やだ、謝らないでよ。こっちこそ突然呼び出してごめんね。……じゃあ!」  林は小さく笑ったあと、すぐに後ろを向いて立ち去った。気丈に見えた彼女だけれど──一瞬、目尻に手をやったことを俺は気づかないふりをした。  好きな人に、好きと伝える。  それがどれだけ勇気がいることか──今の俺にはわかるんだ。
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