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「……好きです!」
夏休みをひかえた、七月上旬。
となりのクラスの林に校舎裏へ呼び出された俺は、彼女のその言葉を聞いて身をかたくした。
呼び出されたときから、何となく予感はしていたけれど……実際に言われると、相手の表情から気持ちが伝わってきて俺も緊張してしまう。
「私ずっと、中曽根くんのこと好きだったの。付き合ってください」
林は顔を赤くしながらも、懸命にまっすぐにこちらを見て言葉を続けた。小学校が同じだった彼女。もちろん俺も何度か話したりしたことはあったけれど、まさか好意を持ってくれていたなんて気がつかなかった。
林は可愛い、と思う。小学校のときも、ほとんどの男子は可愛いと思っていたに違いないし、何人かは実際にそう言っていた。
そんな林から告白されて嬉しくないはずもなかったが──でも、俺の心には今、ある人物がずっといる。
「……ごめん。付き合えない」
俺がそう言うと、林は悲しそうな顔をした。唇を噛みしめて「他に好きな子がいるの?」と聞いてくる。ここで嘘をついたりごまかしたりすることは、真剣に告白してくれた彼女に失礼だと思った。
俺は、小さくうなずいた。
「それって、戸田るりちゃん?」
「え!」
ふいにあいつの名前が林から出てきて、びっくりした。な……何でバレた? 自分の顔も赤くなってしまったのがわかった。
「あ、ああ……」
「そっか。昔から、仲が良かったもんね」
そ、そうだっけ?
まぁたしかに、女子の中では戸田と一番よく話していたのかもしれない。
それは無意識に俺も、彼女に好意を持っていたからだと今ではわかる。
彼女の消しゴムを見てあらためて意識したあの日──あれから、俺は戸田を意識しっぱなしだ。それは戸田も、同じだと思う。
「本当……ごめん」
「やだ、謝らないでよ。こっちこそ突然呼び出してごめんね。……じゃあ!」
林は小さく笑ったあと、すぐに後ろを向いて立ち去った。気丈に見えた彼女だけれど──一瞬、目尻に手をやったことを俺は気づかないふりをした。
好きな人に、好きと伝える。
それがどれだけ勇気がいることか──今の俺にはわかるんだ。
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