夏の章「好きと伝える」 ① 悠Side

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 数日後、休み時間を利用して、俺は友人数人とサッカーをしていた。  部活でないお遊びのゲームをひとまず楽しみ、少し離れた花壇付近に腰をおろす。大谷と小池も同じように休憩をしていると、大谷がふと話しかけてきた。 「なぁ。今度の祭りにさ、同小メンバー誘って行かないか?」 「祭り?」  聞き返してしまったが、すぐにピンときた。祭りといったらこの町では、姫泣祭(ひめなきまつり)のことを指す。大きな姫泣川という河川があり、その付近の河川敷や神社で大きな夏祭りが毎年催されているのだ。 「姫泣祭、今年は大勢で行こうぜー」  にしし、と笑って大谷は言う。騒がしい大谷は祭りももちろん大好きで、大勢で騒ぐことも好きなんだよな。俺もつられて笑ってしまう。 「やだって言っても、連れ出すんだろ」 「何だよ。行きたくないのか?」 「そうは言ってないだろ。いいじゃん、同小メンバー。どこらへんまで声かけるんだ?」 「……それがだねぇ、中曽根くん」  そこで大谷が、変に体をくねらせる。な、なんだ?  思わず後ずさりしそうになる俺に、大谷の向こうに座る小池がひょっこり顔を出して教えてくれた。 「ケイちゃん、中曽根くんに女の子に声をかけてほしいんだよ。自分は声かけられないからって、他力本願」  すると大谷がすかさず「隼人、バラすな! あと、ケイちゃんって言うな!」とあわてる。  ああ、なんだ──そういうこと。 「女子も誘うのか?」  すると大谷は、愚問とばかりに目と口を大きく開いた。 「当たり前だろ! 何が悲しくて、野郎だけで祭りに行かねばならんのだ!」 「去年は俺たちだけで行ったじゃん」 「去年は小学生だっただろう!」 「なに、当たり前のこと言ってるんだ」  ちんぷんかんぷんな大谷の言葉に、首をひねるばかりだ。まぁようは、女子とお近づきになりたいってことなんだろうけど……。  必死な大谷をあわれに思ったのか、小池もフォローするように俺に声をかけた。 「ほら、悠くん、戸田さんと仲がいいじゃない。あそこらへんに声かけられないかな?」  戸田の名前が出て、ドキリとする。 「戸田?」 「うん。あと羽鳥さんとか望月さんとか。毎朝集まって、お話してるよね、あの三人」 「あー、そうだな……」  返事もうわの空で、戸田のことを思い浮かべた。戸田と夏祭りかぁ。  そうだな。もしかしたら、いい機会なのかもしれない。そこで俺の気持ちを、はっきり伝えるというのはどうだろうか。  思えば消しゴムで名前だけ書いて、トンズラするなんてちょっと情けなかった。  あれから戸田とギクシャクはしていないが、普通に会話をしてしまっているので、逆にどう進展していいのかわからなくなっていたのだ。  戸田がどう思っているかは知らないが、俺はちょっとモヤモヤしている。  けじめ……つけるべき、だよな。 「わかった。声かけてみる」  そう言うと、大谷がパッと表情を明るくした。 「頼むぜ中曽根! お前、女子ウケだけはいいからな!」 「だけってなんだよ、だけって!」  まったく、このお調子者め。  そんなこんなで夏祭り企画の打ち合わせをした俺たちは、ふたたびお遊びのサッカーに興じる。  でも俺は、どうやって戸田に声をかけようか、誘えたらあいつの浴衣姿が見られるのかな、なんてぼんやりと考えてしまっていた。──それがいけなかった。 「うわわ! ……いてぇ!」  ボールを踏んでしまいまぬけにこけた俺は、まぬけにも腕にすり傷を作ってしまったのだった。
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