66人が本棚に入れています
本棚に追加
数日後、休み時間を利用して、俺は友人数人とサッカーをしていた。
部活でないお遊びのゲームをひとまず楽しみ、少し離れた花壇付近に腰をおろす。大谷と小池も同じように休憩をしていると、大谷がふと話しかけてきた。
「なぁ。今度の祭りにさ、同小メンバー誘って行かないか?」
「祭り?」
聞き返してしまったが、すぐにピンときた。祭りといったらこの町では、姫泣祭のことを指す。大きな姫泣川という河川があり、その付近の河川敷や神社で大きな夏祭りが毎年催されているのだ。
「姫泣祭、今年は大勢で行こうぜー」
にしし、と笑って大谷は言う。騒がしい大谷は祭りももちろん大好きで、大勢で騒ぐことも好きなんだよな。俺もつられて笑ってしまう。
「やだって言っても、連れ出すんだろ」
「何だよ。行きたくないのか?」
「そうは言ってないだろ。いいじゃん、同小メンバー。どこらへんまで声かけるんだ?」
「……それがだねぇ、中曽根くん」
そこで大谷が、変に体をくねらせる。な、なんだ?
思わず後ずさりしそうになる俺に、大谷の向こうに座る小池がひょっこり顔を出して教えてくれた。
「ケイちゃん、中曽根くんに女の子に声をかけてほしいんだよ。自分は声かけられないからって、他力本願」
すると大谷がすかさず「隼人、バラすな! あと、ケイちゃんって言うな!」とあわてる。
ああ、なんだ──そういうこと。
「女子も誘うのか?」
すると大谷は、愚問とばかりに目と口を大きく開いた。
「当たり前だろ! 何が悲しくて、野郎だけで祭りに行かねばならんのだ!」
「去年は俺たちだけで行ったじゃん」
「去年は小学生だっただろう!」
「なに、当たり前のこと言ってるんだ」
ちんぷんかんぷんな大谷の言葉に、首をひねるばかりだ。まぁようは、女子とお近づきになりたいってことなんだろうけど……。
必死な大谷をあわれに思ったのか、小池もフォローするように俺に声をかけた。
「ほら、悠くん、戸田さんと仲がいいじゃない。あそこらへんに声かけられないかな?」
戸田の名前が出て、ドキリとする。
「戸田?」
「うん。あと羽鳥さんとか望月さんとか。毎朝集まって、お話してるよね、あの三人」
「あー、そうだな……」
返事もうわの空で、戸田のことを思い浮かべた。戸田と夏祭りかぁ。
そうだな。もしかしたら、いい機会なのかもしれない。そこで俺の気持ちを、はっきり伝えるというのはどうだろうか。
思えば消しゴムで名前だけ書いて、トンズラするなんてちょっと情けなかった。
あれから戸田とギクシャクはしていないが、普通に会話をしてしまっているので、逆にどう進展していいのかわからなくなっていたのだ。
戸田がどう思っているかは知らないが、俺はちょっとモヤモヤしている。
けじめ……つけるべき、だよな。
「わかった。声かけてみる」
そう言うと、大谷がパッと表情を明るくした。
「頼むぜ中曽根! お前、女子ウケだけはいいからな!」
「だけってなんだよ、だけって!」
まったく、このお調子者め。
そんなこんなで夏祭り企画の打ち合わせをした俺たちは、ふたたびお遊びのサッカーに興じる。
でも俺は、どうやって戸田に声をかけようか、誘えたらあいつの浴衣姿が見られるのかな、なんてぼんやりと考えてしまっていた。──それがいけなかった。
「うわわ! ……いてぇ!」
ボールを踏んでしまいまぬけにこけた俺は、まぬけにも腕にすり傷を作ってしまったのだった。
最初のコメントを投稿しよう!