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夏の章「好きと伝える」 ② るりSide
中曽根が保健室から出ていくと、私は「はぁ〜」と安堵の息をもらした。
ビックリした。まさかこんな場所で、中曽根とはち合わせするなんて。
じつは生理痛で保健室に来ていた私。少し横にならせてもらおうと来たのだけれど、そんなことは絶対に中曽根には言えないし言いたくない。うまくごまかせて、よかった。
しかも夏祭りに誘ってもらえるなんて、すごくラッキーだ。ま、大勢で行こうってやつに声をかけてもらえただけだけど、それでもやっぱり嬉しい。
あの消しゴム事件以来、とくに進展はないのだけれど……たぶんきっと、両想い……だよね?
「にぎやかな子ね」
中曽根が閉めた扉をぼーっと見ていた私に、篠田先生が話しかけてきた。どうやら中曽根のことを言っているらしい。ハキハキしている中曽根は、いつだってみんなの注目をひく。
「そうですね」
まだ胸をドキドキさせたまま、うわの空で答えてしまった。そんな私に、篠田先生はさらに言葉を続けた。
「彼、人気があるみたいね」
「え?」
篠田先生へと顔を向けると、どこかいたずらっぽい瞳とかち合った。
「じつは最近、彼が告白されてるところ見ちゃったのよ。モテモテなのね」
「……!」
え……中曽根が、告白?
その事実は、別の意味でまた私の心臓をドキッとさせた。
一体誰に、告白されたの?
中曽根、それになんて答えたの?
さまざまな疑問が浮かんできたけれど、篠田先生の視線が気になって、私はあわてて笑ってごまかした。
「へ……へぇー、そうなんですか。意外だな。サッカーだけは上手だから、だまされてる子多いんだぁ」
表面だけを滑る言葉が、篠田先生にどう伝わるのかなんて気にする余裕はなかった。
気になるのは、中曽根が受けた告白の行方。
まさか、オッケーしたとかないよね? 今までと変わった様子もないし、さっきだっていつもどおりだったし。
……でも、実際のことなんて、本人たちにしかわからないのかもしれない。
中曽根は、昔から女の子にモテるタイプだった。
それは見た目のせいだけじゃなく、誰にでもすぐ打ち解けられる人懐っこい態度や、女子にも恥ずかしがらずに話しかけたり、優しくできる性格のせいもある。
告白されたのだってきっと、今回が初めてじゃないはずだ。
どうしよう……私、両想いかもって浮かれてたけれど、そんなのんびりしている場合じゃなかったのかもしれない。
頭の中はぐるぐると混乱して、お腹の痛みも忘れてしまいそうになる。
「戸田さん、どうしたの?」
「えっ」
黙ってしまった私を見て、篠田先生が声をかけてきた。
「もしかして気になるの? 中曽根くんのこと」
「ちち、違います!」
ぶんぶん、と慌てて首を横に振った。
うわぁ、そんなにわかりやすく悩んでいたのかな? 私の視線は宙をさまよってしまう。
悩みのタネをまいてくれた篠田先生は、そんな私を見て小さく笑い「そういえば戸田さん、早く横になりなさいな」なんて言う。
もう、こっちはそれどころじゃないよ! ──なんて、言えるはずもなく。
「あ……はい」
と私はもそもそと、ベッドに横になった。
それでも頭の中をしめるのは、中曽根が告白をされたということばかり。
ああ──私、どうしたらいいんだろう。
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