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「そりゃあ、告白しかないでしょう!」
「ええー?」
私の悩みは、美羽のその一言で一蹴されてしまった。
今日は土曜日。私の家に、美羽と梢ちゃんを招いた。せまりくる夏休みのお遊び計画を立てよう──というのは建前で、私の恋愛相談に乗ってもらうべく誘ったのだ。
私の部屋で秘密会議みたいに、三人輪になってしゃべっている。ミニテーブルに乗っているジュースがまったく減らないのは、おしゃべりにばかり夢中になっているからだった。
「告白って、私から?」
「そりゃあ、るりっちからいくしかないでしょう!」
恋愛相談をしてからウキウキしっぱなしの美羽は、指をつき立ててそう言いきる。そのとなりで、いつもは私の援護する梢ちゃんも今日はどうやら美羽の味方のようで……。
「まぁ、みずから動かないとねぇ」
「梢ちゃんまで……」
いつもなら美羽のたしなめ役となる梢ちゃんでさえ、美羽のアドバイスを肯定する。でもそれがきっと、一番の解決方法なのだからしかたないのだろう。
うう、でも、告白かぁ。
「……恥ずかしいなぁ」
「なーに言ってるの。もう消しゴム見られたんだし、いまさらだよ?」
「それはそうだけど」
ついつい、あっけらかんと言ってくれた梢ちゃんを恨めしげに見てしまう。
二人には、あの消しゴム事件からのことを話した。それを聞いた二人は「もう、ほぼ両想いじゃない!」なんて盛り上がってくれたから、ここで怖気づいている私にあきれているのだ。
でもでも、消しゴムを見られたのと、実際に自分の口から告白するのでは緊張感がまったく違う。そもそもあの消しゴムだって、アクシデントだったし。
告白となれば、その緊張感はマックスを通り越してキャパオーバーだ。かなり恥ずかしい。
クッションをぎゅっと抱き込んで、つい顔をうずめてしまう。しかしそんな私を逃さないとばかりに、美羽が「あのねぇ、るりっち」と追い打ちをかけてきた。
「もう、男子にばかり期待する時代は終わってるんだよ。今は女の子から動かないと、なーんにも始まらないんだから!」
「そ、そうなの?」
やけに迫力あるその物言いに、私は思わず顔を上げて身を正した。
「そう! 白馬の王子様なんて現実にはいないんだからね。お姫様が待って寝ていたら、あっという間におばさんになっちゃうんだから!」
うう、美羽にしては、妙に説得力のある言い方……。
そんな美羽の背後には、私の本棚がある。そこに幼い頃の「シンデレラ」や「白雪姫」なんかの絵本の背表紙が見えていて、余計いたたまれなくなった。
シンデレラの魔法使いも、白雪姫の王子様も、きっと現実にはやってこない。待っているだけで幸運が巡ってくるのは、絵本のお姫様だけなのだろう。
もしここで私が動かなかったら、何もないまま夏休みを迎えてしまうのかもしれない。
(うう……こうなったら!)
グッと握りこぶしを作った。
そうだ。そもそも二人を今日招いたのだって、背中をこうして押してほしかったからだ。ここで覚悟を決めなくちゃ、呼んだ意味がないじゃない!
「わかった。私……がんばる!」
そう宣言すると、美羽と梢ちゃんが待ってましたとばかりに盛り上がった。
「お、ついにやる気を出したね。じゃあ、いつ告白する?」
テキパキとしている梢ちゃんは、ここでもテキパキと決めようとしちゃう。
「告白っていうか、この場合は両想いの確認だよね。いいなあ〜両想い確定組は」
最近は園芸部の部長さんに狙いをさだめた美羽は、自分の恋愛と比べてそんなことを言う。
「う、プレッシャー与えないで」
二人の声援(?)を受け、悩んだ私はもう一度強く握りこぶしを作る。そしてそれを掲げて、力を込めて言った。
「決戦は……夏休みまでに!」
すると美羽は「おお、るりっちの闘魂が見える!」とはやし立て、梢ちゃんは「いけいけ、るり!」と笑った。
私は口のはしをキュッと結ぶと、勉強机に置いている卓上カレンダーへと目を向けた。
夏休みまで、あと二週間。みずから追い込んでしまったことを自覚して、ちょっと気が弱りそうになった。
でももう──後にはひけない。
待っているだけのお姫様になんか、なってられないんだから。
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