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夏の章「好きと伝える」 ③ 悠Side
夏休みまで、あと一週間となった月曜日。俺、中曽根悠はとあることに悩んでいた。
あいつへの告白を夏祭りにしようと決心した俺の悩みは、ただひとつ。どう告白するか──だ。
(やっぱり帰り道とかで、した方がいいのかな?)
俺と戸田は、家も近い。だから夏祭りが終わったあと、自然と帰る方向も同じだから二人きりになれるチャンスはあるだろう。
なんとなく告白シーンを想像してみると、ドキドキしてきてしまう。うわ。俺、今まで恋愛なんてしたことないから、なんか変な感じ。
そんなことを考えながら放課後の廊下を歩いていたら、ふと、向こう側から近づいてくる一人の女子に気がついた。林だった。
先日俺に告白をしてくれた彼女は、俺の存在に気づいていたらしく、そそくさとすれ違っていった。視線を不自然にそらしながら去った彼女の背中を、振り返ってつい追ってしまう。
「…………」
ぎこちなくなってしまうのは、仕方がないことなのかもしれない。林とは小学校の頃、同じクラスになったこともあったし同じ係についたこともあった。気さくに話ができる、いいやつだったのに。
告白の失敗とはつまり、こういうことなのかもしれない。以前とまったく同じ関係には、戻れない。話をするどころか、目も合わせられなくなるほどに、距離が開いてしまうんだ。
──もし戸田にフラレたら、俺もそうなってしまうんだろうか。
そんな考えが頭をもたげて、躊躇する。たぶんきっと、俺たちは両想いなんだろうけれど、もしもうまくいかなかったら? だって百パーセント大丈夫だなんて保証、ないじゃないか。
さっきまで心を占めていた告白への勢いが、急にしぼんでいく。と同時に、頭がぼんやりとしてくるのを感じて、俺は額に手をよせた。
(なんか……ボーッとする)
先ほどまで感じていなかった痛みが、こめかみあたりにある。何だか体も熱くなってきた俺は、まさかな、と思いつつもそのまま保健室へと足を向けた。
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