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そんなこんなで、戸田とギクシャクしたままの日々は過ぎていく。
ある日、理科の授業で理科室へと移動していた俺たちは「水の中の微生物」というテーマで、池の水を顕微鏡でのぞいていた。
六つの班にわかれた理科室内で、それぞれが実験用テーブルに用意された顕微鏡を使っている。
「えー、池の水には様々な微生物たちがひそんでいますね。今見てもらってるのは植物プランクトンです。各班、違うのを用意したので、あとで正解を聞きますよ。みなさん、確認できていますか?」
理科の先生が声をはり上げている。
俺はその声を聞きながら、やっと回ってきた自分の番がきたので、そっと目を当てのぞいた。
見えたのは三日月のようなやつ──ミカヅキモだ。机からの振動が伝わっているのか、その中で小さく揺れたように見えた。
本当に、いた。こんなやつが水の中にいるなんて、裸眼じゃ絶対にわかんないよな。
小さく感動していた俺の耳に、また先生の声がすべりこんでくる。
「見えていますか? すごいでしょう、私たちの身の回りにも、こんなにもたくさんの微生物がいるんですよ。見えないだけで、たくさんの生物がそこには存在しているんです」
見えないだけで、存在するもの。
そんなものは、ごまんとある。
そんなことでも言いたげなそのセリフに、ふと、なぜかまた戸田のことを思い出してしまう。
あいつが隠した消しゴムの、ケース下。そこにももしかしたら、見えないだけで存在する何かが──あったのかもしれない。
「なぁなぁ中曽根、何かわかったか? おれはミジンコだと思うんだけどさ!」
思いふけっていたら、同じ班の大谷が俺の肩を揺すって妨害してきた。
「あっぶね! のぞいてるときに揺らすなよ」
あわてて顔をあげた俺は、その拍子に大谷の向こうにいた人物と目が合ってしまった。
となりのテーブルの班にいた戸田だ。
でも彼女はすぐに、パッと横を向いてしまう。
「…………」
「なぁ聞いてるか中曽根? みんなミカヅキモって言うけどよー、俺はミジンコ推しなんだよなー」
「……バカ、植物プランクトンって、先生が言ってただろ」
戸田の態度にふてくされていたのを、大谷のバカな発言に怒ったふりをしてごまかした。
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