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授業の終わりを告げるチャイムが鳴り、生徒がざわめき出した。四限だったので、次は昼食だ。みんなお腹がペコペコで、一刻も早く教室に帰りたいのだろう。
またざわめきをかき分けるように、先生の声が届いた。
「それでは授業を終わります。理科係さん、最終チェックだけお願いしますね」
先生はそれだけ淡々と告げ、さっさと理科室を出てしまった。
げ、理科係って俺じゃん。
「中曽根、早く行こうぜ〜」
「僕もお腹ペコペコだよ」
となりの大谷と、近寄ってきた小池が一緒に声をかけてくる。
他の生徒が続々と理科室から出ていく中、残っているのは俺たちだけとなった。
「わるい。俺、理科係だからちょっと遅れていくよ」
理科係というのは、ようは理科の授業での雑用係だ。
理科室が使われた日には、こうして器具の最終チェックや忘れ物がないかを、見なければいけない。ちなみにもう一人いるのだが、そいつは今体調不良で欠席しているため、今日は俺一人となってしまった。
「わかった。んじゃ先行ってるな」
と大谷はあっさり席を立ち、
「悠くん、またね」
と小池も手を振った。
二人は俺を待つことなく、さっさと教室へ向かってしまう。まったく薄情なやつらだ。ま、女子じゃないんだから、行動いちいち一緒でも嫌だけどな。
さて、さっさとチェックして俺も行こうっと。
一人理科室に残った俺は、使われた顕微鏡がちゃんと戻されているか、数が合っているかをチェックする。
いち、に、さん………ん、オッケー。
そして身をかがめて、ざっと理科用実験台の下の棚をチェックする。
たまにここに、教科書や筆記用具を忘れていくバカがいるんだよなぁ。あ、やっぱり今日も!
「おいおい、誰だよ」
その忘れ物が見えた机に向かっていく途中で、ハッとする。
こっちの席のグループ。
それをあまり見ないように、俺はしていたから。
(……このペンケース…)
見間違えるはずがない。
だってそれは、俺の席のとなりの人物が、持っているやつだから。
よく見たことのあるパステルイエローのペンケース。戸田るりの、ペンケースだった。
(あいつ……忘れてってやがんの)
女の子らしい可愛らしいペンケースを机の上に置いて、俺はそれを見つめた。
チャックで閉じ込められているはずの、戸田がいつも使っている文房具。
その中にあの、消しゴムもあるのだと考えながら。
「…………」
俺の脳裏に浮かぶのは、以前の小池のセリフ。
──あれ、悠くん知らない? 消しゴムに好きな人の名前書くとかいうやつ。
そんなおまじないがあるなんて、知らなかった。
だとしたら、戸田はそれを実行しているのだろうか。あれだけ、俺に消しゴムを使われるのを嫌がっていたし。
それに……そうだ。
たしか、あいつがあわてだしたのは、俺が小さくなった消しゴムをケースから出そうとした時じゃなかったか?
「…………」
駄目だ、最低だ、ともう一人の自分が小さく叫ぶ。
それなのに俺の手は、勝手に机の上のペンケースのチャックを、引っ張ろうとしている。
これは好奇心なのだろうか。
苛立ちからくる、反動なのだろうか。
存外にたいした葛藤もなく、俺はペンケースから消しゴムを取り出した。
コロンと小さな消しゴムが、俺の手に落ちる。
ちょっと……ちょっと見るだけだ。
見てすぐ、戻せばいい。
本当におまじないがされているかなんて、わかんないし。
以前、戸田から奪われたあいつの消しゴム。
それを俺は、ケースからそっと引き抜いた。
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