第17話 森の妖精

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「リ、リクは渡しませんよ!?」 「……」  イリノアの押し黙る姿は、まさしく乙女のそれだ。同じ女として、ましてや想いを寄せる相手が同じであるためか、共感と疑心、それからお互いに叶わぬだろうなという諦めを敏感に感じ取る事出来てしまった。  渡しませんとか言いながら、リーリーにも手が届かない相手だ。  異種族間で恋愛をするのは、ロマンチックな物語の定番だ。リーリーも幼い頃に父に沢山の本を読んでもらっていた。  まさか自分が、初めてその心を手に入れたい、わかり合いたいと思った相手が同じ人間ではないとは思わなかったが。  しかしリクはもともと人間だったそうだ。ならばそんなに違いはないのではないか、なんて気楽に考えてしまうリーリーだが、先に死ぬであろう自分には、残されてしまうリクの気持ちなんてわからない。  だから少しでも、今のリクを支える事に決めた。それしか出来ないから。  心の距離は、物理的な距離を幾ら埋めようとも縮まる事はない。  リクと出会って、その事をよく知った。  イリノアたちエルフにとってはどうかわからないが、イリノアがリクを選んだのだから、エルフたちの間でも異種族との恋愛は認められているのだろう。  その相手が吸血鬼でなければ。 「どうしてエルフは、吸血鬼をこんなに憎んでいるんですか?」  ずっと気になっていた。もちろんリクがエルフたちに何かしたわけではない。それにもかかわらず、エルフたちのリクに対する態度は厳しすぎると感じていた。 「わたしは、ずっとアメルンで暮らしている。たまに旅に出る。だから、何故なのかわからない」  長の娘であるはずなのに、イリノアは何も知らないことが意外だと思った。  いつにも増して硬い表情を浮かべているから、きっとイリノアにも色々事情があるのだろう。  同じギルドのメンバーで、学園の先輩であるイリノアだ。リーリーはイリノアを仲間として大切にしたい。だから、今は聞かないことに決めた。 「ともかく、このままじゃリクの身が危ないわね」  今日の感じでは、今にもリクが殺されてしまいそうだった。 「その心配はないよ」  急に声がして、リーリーとイリノアは部屋のドアへと顔を向けた。 「初めまして、リリエラ様。おれはエルドレ。賢者様のお世話をするものです」  現れたのは、リーリーとそう変わらない外見年齢の男のエルフだ。 「は、初めまして」  突然のことに驚くリーリーだが、イリノアは違った。  床に片膝をつき、深く礼をしてみせたのだ。 「イリノア、久しぶりだね。おれたち幼馴染なんだからそういうのやめてよ」 「それはできません」  こうべを垂れたままのイリノアに肩をすくめてみせ、エルドレはリーリーににっこりと微笑んだ。 ★
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