第12話 包囲された学園

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★ 「リクッ!!」  覚醒したリーリーの目に飛び込んできたのは、リクが首を切られて大量の血を吹き出しながら倒れるところだった。 「……ごめん、にい」  秋彦といったか、童顔の少年が血に濡れたナイフを力なく取落す。彼も吸血鬼だ、それなりの力が込められたナイフは、頚動脈を軽く断ち切ったようで、返り血がすごかった。 「なんて事するのよ!?」  憤りや悲しみに任せて声を張り上げる。  しかし、吸血鬼たちはただの人間のリーリーには興味ないと、軽く無視してしまう。 「〈ウィンドシャドウ〉!」  極暑の風の刃を生み出して、後ろ手に縛る縄を切ると、急いでリクの側へよる。首の傷を両手で抑えるが、この程度で止血できるはずもなかった。  それに、不気味な事に、今なお勢いよく溢れる血が、ひとかたまりに集まってもぞもぞと動き出した。 「な、なによ、どうなってんのよ!?」  それらは一直線に赤黒く光る獣人族のクリスタルへと引き込まれていく。すると、クリスタルは今までよりもさらに強烈な光を放ち始めた。 「さすが!リクの力はすごいね!」  嬉しそうに言ったのは、見たこともない男だ。リクと同じ黒い髪に赤い目をもつ男。  しかし、リーリーは気付いた。この男の声は、何度か間近で聞いた、ピエロ面の声だ。 「ピエロの男ね!?あんた、一体なにがしたいのよ!?」 「キミはリクのなんなのかな?恋人?それはそれは、挨拶が遅れて申し訳ない。ボクはリクの父親みたいなものだよ。まあ、もう殺しちゃったけどね」  なんでもないように言ってのける男に、リーリーは背筋が凍るほどの恐怖を感じた。  この男は、間違いなく狂ってる。 「さて、十分かな」  もはやリーリーには目もくれず、男はクリスタルへと向き直ると、おもむろに手をかざした。 「こちらへきてもらうぞ、ソラ」  クリスタルを中心に、黒い光が飛び散った。それは次第に一箇所へあつまり、徐々に消えていく。  リーリーはその光の消えたところへ目を向け、驚愕の表情を浮かべる。  そこにはひとりの青年が立っていた。  黒い髪と赤い目は吸血鬼のそれだ。いや、そんなことはどうでもいい。  その青年は、とても似ていたのだ。 「リク……?」  リーリーの膝の上で冷たくなっているその人に。  だがよく見れば違いもある。  聞けば14歳で止まってしまったというリクの姿よりも、その青年はもう少し年上だ。そしてだらしなく伸び放題の癖っ毛なリクとは違い、青年の髪は綺麗に整えられている。幾分か背も高いようだ。 「やあ、ソラ!キミを待っていたんだよ!」 「ん、海堂さん?」  キョロキョロと辺りを見回した青年は、ふとリーリーに目を向け、その膝に倒れるリクを見た。 「結局殺しちゃったんだね。残念だな、俺も兄さんに会いたかった」 「まあまあ、怒らないでよね。それより、せっかくきてくれたから、色々見せたいものがあるんだよ」  そう言って、男はニッコリと笑い、青年が静かに頷いた。  いつものように、男の転移魔法が発動する。景色に解けるように消える寸前で、秋彦だけが振り返った。  泣きそうな、とても可哀想な顔をしている。  リーリーはそう思った。
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