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「おっはよーございまーす!!」
窓から教室に入ると、ちょうど1時間目の授業が始まったところだった。
クラスメイトがギョッとして、俺のことを見ている。それからノアと目があった。
なんか言いたそうに、首を左右に振っている。
「ん?」
「ん"ん"っ」
聞き覚えのある咳払いの音。
やっべ。ウルシュラ先生の授業じゃね?
「リク、今が何時か知っているか?」
「アハ、アハハ……すみません遅刻しました」
「それから、ここが何階か知っているか?」
「すみませんちょっと身体強化魔法の練習で……」
よいしょ、と踵を返して外に逃げ出そうした俺の襟首を、ウルシュラが電光石火の勢いでむんずと掴んだ。
「ウグハッ、ぐびがあああ」
「逃すか!お前には色々聞きたいことがある!職員室へ来い!!」
ズルズルと引き摺られて行く俺に、ノアは哀れみのこもった目を向けてくる。
「今から自習だ!」
ウルシュラはそう言って、教室の引き戸を勢いよく閉めた。
職員室へ引きずり込まれた俺は、自分の椅子に踏ん反り返るウルシュラ先生を前に正座させられ、鋭い眼光で見下ろされる。
ほんとにボンテージとか鞭とか似合いそうな教師だ。怖っ。
「十日も寝込んでいたそうだな」
「らしいですね、はい」
俺もそれは昨日聞いた。そりゃ身体も鈍るわ。
「それで、学園が襲われた時、お前は侵入者と闘ったらしいじゃないか?」
「そ、そりゃあ悪い奴がいたらやっつけるって習いませんでした?顔がアンパンのヒーローに」
「わけのわからんことを言ってはぐらかすな!!」
ゲシっとピンヒールが、俺の肩に食い込む。
「イテッ!暴力反対っス!ってグリグリしないでお願いしまっす!」
クッソ、この女王様体質め!ドS!
ウルシュラ女王が足を下ろし、また俺を睨みつけてくる。
「真面目な話、お前は何者だ?」
「何者もないですって、」
「教師も生徒も殆どが眠らされていた。そんな中、お前とリーリーとジルバートだけは敵に立ち向かい、あまつさえその敵はお前の知り合いだったそうじゃないか」
やっぱバレるよな。源太とやりあった時、ほかのクラスメイトも見てたし。
「そして、学園の侵入者は皆、お前と同じ赤い目だったと生徒が言っている」
なんて言えばいいんだよ。つか、あの時この先生も職員室で寝ぼけてたクセに偉そうに。
「なんとか言ったらどうだ?」
ここで本当のことを言って、ああそうかお前も大変だな、とはならないだろう。ウルシュラはそんなに甘くない。
俺のことを知っても、普通に接してくれるリーリーやノア、ジルバート、マスターが特別なだけだ。俺はこの世界に来て、特別な相手と立て続けに出会ってしまった。
次も、なんて、そんな都合の良い話などない。これでも100年生きてきた吸血鬼だ。運と現実はわきまえているつもりだ。
「先生、本当は、」
と、覚悟を決めた俺を遮るように、職員室のドアが開いた。
「あら?どうしたのかしら、ウルシュラ先生」
優しげな声が、ウルシュラの名を呼んだ。ただ、呼ばれたウルシュラは、ビクッと体を揺らして顔を上げる。
「が、学園長……」
学園長!この学園で一番偉い人!
興味津々とそちらを見れば。
20代後半の若い女性が、優しげな、それでいて威圧的な笑顔でこっちを見ていた。
あれ?なんか思ってた学園長の感じじゃない。もっとおばあさんとか想像してたわ。
「あっれぇ?どうしたんだい、リク君」
学園長の後ろには、俺もよく知る優男が。
「マスター!」
あんまりな雰囲気だったから、マスターの優男な顔になんだか安心感が湧いた。
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