第16話 共同戦線

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「し、しつれいします!隣国、ベルクレールより使いの方がお見えになりました!」  若い虎耳の男が、焦ったように告げる。ティアナが軽く頷いてやると、虎耳の男が一度引っ込み、しばらくして甲冑を纏った男が入ってきた。 「突然の来訪、申し訳ない。しかし急遽、お話ししたいことがありまして」 「なんじゃ?」  獣人族に堅苦しい礼儀など必要がないことを、この男はよくわかっているようだ。 「実は、わがベルクレール領内のいくつかの村が、魔物の襲撃を受け壊滅してしまいました」 「ほう」  お互いに山脈と接する地に住んでいるため、魔物の襲撃がベルクレールでも続いていることに驚きはしない。  だが、アメルンには獣人族という砦があるが、ベルクレールにはない、それだけの違いだ。 「ベルクレール軍はアメルンと国境を接する山脈麓まで進軍し、適時魔物の討伐をおこなっているのですが」  そこで言葉を詰まらせる男に、ティアナはなんとなく事情を察した。 「つまり手が回らなくなってきており、我らに情報を求めに参ったということじゃな?」 「はい。ダラス村は山脈からおりてくる魔物から国を守る砦の村。なにかご存知なのでは、と」 「すまぬが、我らも魔物の対応に追われているところじゃ」  そう伝えれば、男の顔にわかりやすい落胆が浮かぶ。 「ただ、我らも連日の襲撃にそろそろ手を打たねばと思っていた」 「と、いいますと?」 「アメルン国王に進言する。我らの村が、魔物の脅威に晒されていると」  室内の獣人たちがざわつく。 「ぞ、族長、人間を頼るということで?」 「忘れたか?わらわの男は人間よ」 「し、失礼しました。ですが、」 「潮時じゃ。ベルクレール側もそのつもりであったのだろう?」  水を向けられた男が、参ったと肩をすくめた。 「実は、そのつもりで参りました。ベルクレールとアメルンが友好国であっても、獣人族という砦のあるアメルンは、まだこの異変に気付いてはいないと踏んでいました。そのため、獣人族の口添えがあれば、我らとしても話を通しやすいと考えての行動です」 「して、そちらはアメルンになにを求めておるのじゃ?」  問いはしたが、ティアナにはわかった。男は多分、こういうだろうと。 「アメルンとベルクレールの共同作戦を提案したい。国力では我が国を上回るアメルンに、魔物討伐の協力を願いたいと、この地の砦であるティアナ様より国王にお伝え願えませんか」  ふう、と息を吐き出し、ティアナは一同を見回す。  集まっていた獣人たちは、みな一様に険しい顔をしている。  そこで、ティアナはふと口許を緩める。 「ちょうど良い。国王に進言するとともに、我らの神にもお越し願おうではないか」  ティアナの言葉に、難しい顔をしていた獣人たちが、一斉に笑い出した。 「そりゃあいいですな!」 「わしもそれに賛成じゃ!」  ただ一人、ベルクレールの男だけは、戸惑ったような表情を浮かべていた。 ★
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