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「し、しつれいします!隣国、ベルクレールより使いの方がお見えになりました!」
若い虎耳の男が、焦ったように告げる。ティアナが軽く頷いてやると、虎耳の男が一度引っ込み、しばらくして甲冑を纏った男が入ってきた。
「突然の来訪、申し訳ない。しかし急遽、お話ししたいことがありまして」
「なんじゃ?」
獣人族に堅苦しい礼儀など必要がないことを、この男はよくわかっているようだ。
「実は、わがベルクレール領内のいくつかの村が、魔物の襲撃を受け壊滅してしまいました」
「ほう」
お互いに山脈と接する地に住んでいるため、魔物の襲撃がベルクレールでも続いていることに驚きはしない。
だが、アメルンには獣人族という砦があるが、ベルクレールにはない、それだけの違いだ。
「ベルクレール軍はアメルンと国境を接する山脈麓まで進軍し、適時魔物の討伐をおこなっているのですが」
そこで言葉を詰まらせる男に、ティアナはなんとなく事情を察した。
「つまり手が回らなくなってきており、我らに情報を求めに参ったということじゃな?」
「はい。ダラス村は山脈からおりてくる魔物から国を守る砦の村。なにかご存知なのでは、と」
「すまぬが、我らも魔物の対応に追われているところじゃ」
そう伝えれば、男の顔にわかりやすい落胆が浮かぶ。
「ただ、我らも連日の襲撃にそろそろ手を打たねばと思っていた」
「と、いいますと?」
「アメルン国王に進言する。我らの村が、魔物の脅威に晒されていると」
室内の獣人たちがざわつく。
「ぞ、族長、人間を頼るということで?」
「忘れたか?わらわの男は人間よ」
「し、失礼しました。ですが、」
「潮時じゃ。ベルクレール側もそのつもりであったのだろう?」
水を向けられた男が、参ったと肩をすくめた。
「実は、そのつもりで参りました。ベルクレールとアメルンが友好国であっても、獣人族という砦のあるアメルンは、まだこの異変に気付いてはいないと踏んでいました。そのため、獣人族の口添えがあれば、我らとしても話を通しやすいと考えての行動です」
「して、そちらはアメルンになにを求めておるのじゃ?」
問いはしたが、ティアナにはわかった。男は多分、こういうだろうと。
「アメルンとベルクレールの共同作戦を提案したい。国力では我が国を上回るアメルンに、魔物討伐の協力を願いたいと、この地の砦であるティアナ様より国王にお伝え願えませんか」
ふう、と息を吐き出し、ティアナは一同を見回す。
集まっていた獣人たちは、みな一様に険しい顔をしている。
そこで、ティアナはふと口許を緩める。
「ちょうど良い。国王に進言するとともに、我らの神にもお越し願おうではないか」
ティアナの言葉に、難しい顔をしていた獣人たちが、一斉に笑い出した。
「そりゃあいいですな!」
「わしもそれに賛成じゃ!」
ただ一人、ベルクレールの男だけは、戸惑ったような表情を浮かべていた。
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