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「ノアは先に逃げろ」
「え、でも」
「つか正直近くに居られると邪魔」
「言い方ヒドっ!?」
そんなの構ってられるか!俺100年は生きてきたけど、こんなクソでけえ犬初めて見たわ!!
「君だけ残していくなんて出来ないよ!」
いや、やめて、本当にやめて。そう言うのがフラグを形成していくんだぞ!?
犬野郎がノアを見た。グルルと唸る。
そりゃ俺よかノアの方がチビで弱そうだし、犬だってそれはわかるだろうし。だから逃げろって言ったのに。
「クソ、もし俺が死んだら化けて出てやるからな」
駆け出した犬と、ノアの間に立つ。俺は吸血鬼、人よか何倍も強い。でもさすがに、バカでかい犬と闘ったことはない。
向かってくる犬の顔面にグーパンチを繰り出す。しかし犬は速かった。グルンと首を回し、そのまま俺の腕に噛み付く。
「アイタタタタッ」
離せクソ!千切れる、千切れるから!!
「ウラァ!」
犬の鼻面を殴ると、腕を離した。良かった、まだ腕はくっついたままだ。
だが、犬は待ってはくれない。次には首を狙って突っ込んでくる。本能にまかせて、自然と急所を狙っているのだろう。俺は衝撃に備えて身構える。
と、犬は負傷した俺を飛び越えて、後ろの弱そうなノアへ向かって行った。急所を狙ったと見せかけた、見事なフェイントだ。
「ノア!」
「あわわわわわっ」
逃げろと言っても間に合わないだろうか。
ノアは顔面蒼白で尻餅をつく。情けないノアには期待できそうにないな。
俺は走った。瞬時にトップスピードで、犬に向かってーーー、
体当り!効果は抜群だ!
とはならない。
「ぐわぁ、クソッ」
もんどりうって地面に転がる。バカでかい犬も転がる。犬はすぐに体勢を立て直し、あろうことか俺の肩口にこれまたバカでかい前足を振り下ろした。
食い込む爪がハンパなく痛い。
「この、犬が!重っ!」
ガルルルと唸る口元からヨダレがダラダラ垂れていて、なんか臭い。
「いい加減に退けって!」
下半身を犬の胴体に巻き付け、捻り技を仕掛ける。そのまま前足を引き剥がし、太い首に腕を回す。
「うおおおおおお」
渾身の力技で首を捻った。
犬野郎が泡を吹いて暴れる。メキメキと音を立てて、犬野郎の首が折れた。
ドサリと倒れた犬は、先っちょからモワモワと黒い煙となり消える。
「はあ、はあ、はあ」
勝った、けど、キッツかったー。俺もうバカでかい犬とは闘いたくない。
「大丈夫!?」
駆け寄ってきたノアは、顔面蒼白で。
「大丈夫じゃねぇよバーカ」
なんて笑ってやれば、ノアは心底安堵したように笑顔を見せる。
「早く手当しないと」
「いいよこれくらい。ほっときゃ治る」
「でも、」
と言うノアの目の前で、犬に噛まれた傷が徐々に治っていく。
「え、ウソ……?」
「な、便利な身体だろ?」
身体を起こし、胡座をかいて座る俺を、ノアが驚愕の表情で見守っている。なんだか気恥ずかしい。
「リクくんは魔法が使えない落ちこぼれなんじゃないの?」
「言い方!言い方がキツすぎる!」
まあでも確かに不思議だよな。俺だって不思議だもん。
「まあ、吸血鬼なんてみんなこんなもんさ」
そう、俺吸血鬼だから。色々不思議があるんだよ。
「……吸血鬼?」
あ。
「いやー、俺吸血鬼だったらいいなあ、なんて」
「リクくん、吸血鬼なの!?」
あちゃー。やっちゃった。
「あははは」
「ホントに?だから赤い眼をしてるんだね?凄いや!ねぇ、ほかに何が出来るの?空飛ぶとか?コウモリに変身できる?にんにく、キライ?」
「うるせーよ……」
なんだかとっても面倒なヤツにバレてしまった気がする。
尚も質問を続けるノアに、俺は乾いた笑いを漏らした。
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