第10話 獣人族の宴

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「テオせんぱーい」  向かったのは学園の端の研究室。いったいどんな理由をつけているかは知らないが、テオはこの研究室を私物化している。 「テオせんぱーい?」  返事はない。仕方ない、勝手に開けてやる。  ドアノブを握る。瞬間、バチチ、と激しい閃光が走り、俺の身体を電撃が駆け抜けた。手から煙が上がり、不快な焦げ臭さが充満する。 「アタタタタ!!おい、こら!!トラップかけてんじゃねえよ!?」  今の絶対俺じゃなかったら死んでた!  慌てる俺を他所に、ドア越しにテオのくぐもった声が聞こえてくる。 「もー、なに?夏休みだよ、静かにしてよ」 「任務だから!学生の夏休みは任務のためにあるんだから!」 「ああ、マスターか。大丈夫だよリク君。それウソだから。人手不足の言い訳だから」  ほらみろやっぱりそうじゃん!?マスターのウソつき!!  とは言えだ、俺の手元には間違いなく依頼書があるわけで。 「俺は高級学食の為に頑張るってきめたからな!お前も来い!」 「もー君ウザいよ……あ、そう言えば僕、ギルド対抗戦の報酬もらってないんだった」  ん?報酬?たしかそれって…… 「いいよ。一緒に任務行ってあげる……その間君を好きにできるし」 「聞こえてるぞコラ!俺はモノじゃねえ!」  帰ったらリーリーコロス。俺は心に決めた。  無事に帰れたら、だけど。 「さ、面倒はさっさと終わらせよう。で?依頼の内容は?」  テオが部屋から顔を出した。その顔に、依頼書を突きつける。 「知らん!なんて書いてんだ?」 「君さぁ、ほんと、バカだよね」 「うっさい先輩!んで、なんて書いてんの?」  依頼書をしばらく見つめていたテオ先輩が、ふうと溜息をついた。 「そういやもうそんな季節か」 「ん?」  先輩がどこか遠くをみるような顔をする。なんか意外な表情だ。割れた眼鏡の奥の灰色の瞳が、こころなしか翳っているような気もする。 「ま、君には着いてから詳しく説明するとして」  テオは深く息を吐き出し、言った。 「獣人村へ、レッツゴー」 「お、おー!って獣人!?」  それはまさか、可愛らしいケモミミのパラダイスの事か!?  オタクの至高!ケモミミ!!  俄然やる気が湧いて来た!! 「先輩!早く、早く行こう!」  自然ニヘェと笑顔が溢れる。変態とか言うなよ!! 「あー、なんか勘違いしてるっぽいけど、まあいいや」  そんなテオの呟きは、もはや俺の耳には届いていない。
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