第10話 獣人族の宴

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 ピエロ面が去った翌朝。  俺は痛む腹の怪我を庇いながら、村長ティアナの元に馳せ参じた。怪我自体はもうほとんど塞がってはいるけど、毎度のことながら痛みはなかなか引かない。  本当はもう少し寝て痛かった。でも、村長の呼び出しがびっくりするくらいに強かった。 「もう、なんだよもう。そっとしといてよ」 「まあまあ、僕の姉でもあるんだ、勘弁してくれよな」  おい、言ってること矛盾してるぞテオ先輩。  村長に呼び出された広場に辿り着く。昨日の騒ぎで散らばった祭壇の破片は、もうすでにキレイに片付いていた。 「待っていたぞ!さあ、こっちへ来るのじゃ」  ティアナに手招きされ、そちらへ向かう。獣人たちもみんな集まっているようだ。 「我らの大事なクリスタルが奪われた悲しみは大きい」  ティアナが厳かな声で話し出す。 「あのクリスタルは大事な友らとの繋がりでもあった。それがなくなるとは、まさか思ってもいなかったのう」  また、誰かが泣き出す声が聞こえる。 「しかし、我らの願いは叶ったのじゃ」  ん?なんか話しの流れおかしくね? 「見よ、ここにおられるお方は、我らが待ち望んだ存在!吸血鬼様じゃ!」 「っておいこらなんでや?」 「む、だってクリスタルなくなったんじゃもん。代わりのものがいるであろうが」  おいいいい!!だからってこんな、こんなみんなの前で何言ってんの村長!? 「きゅ、吸血鬼ってまさか、冗談だろ」 「いやでも、昨日の闘いはすごかった」 「それに普通なら死んでるような怪我しておいて、もうピンピンしてるぞ」  ピンピンはしてない。めっちゃ痛いの我慢してるから。 「皆、クリスタルがなくとも、我らの吸血鬼様に対する思いはかわらんじゃろ?だから、悲しむのはやめよ!我らの願いは通じたのじゃ!」  ウオオオオオと広場いっぱいに響く雄叫び。  俺はなんとかしてくれとテオ先輩に目を向けるも、興味なさげに自分の爪を眺める先輩がいた。 「よーし宴だ!」 「吸血鬼様が現れた!めでたいぞ!」 「酒をもってこーい!!」  わらわらと準備に取り掛かり始める彼らを、ティアナが愛おしげに見つめている。 「どうじゃ、単純で可愛かろう、吸血鬼どの?」 「いや、まあそうデスネ」  やってきたリビアが嬉しそうに俺の手を引く。 「リク!何してんの?みんな待ってるよ!?」  ああ、もう帰りたい。  されるがままに獣人たちの輪に入る。  もう、酒は勘弁してくれ。  なんて誰も俺の声なんか聞きゃしない。  まあいいか。  たまにはこんなチヤホヤされんのも、悪く無いかな、なんて。
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