プロローグ

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プロローグ

「はあ、はあ、はあ、やめて。来ないで!!」  バシャバシャバシャ。雨水を弾いて逃げる女。  しかし、黒い影は徐々に迫り、 「いやあ、やめ、きゃあああああ!!!!」 「うわあああああ!?」  ガタガタガタアン、と俺はソファベッドごとひっくり返った。 「ビックリしたぁもうこんなに怖いんなら見なきゃ良かったぜチクショー」  照れ隠しだ。と言っても部屋には他に誰もいない。  俺はテレビを切り替えて、観ていたブルーレイを取り出す。『恐怖の殺人鬼』という、B級映画だ。怖いもの見たさでレンタルしたが、確かに怖かった。あんなん実際に襲われたらと思うと……うう、怖すぎるぜ。  ブルーレイを宅配レンタル用の袋に戻す。 「そろそろ腹減ったなあ」  なんて呟いて立ち上がり、ついでにさり気なくソファベッドを元に戻した。スマホを手に台所へ向かう。  今日はなに食べようかなあと、スマホアプリで出前のクーポンを漁りながら、冷蔵庫から輸血用の血液パックを取り出し、近くにあったマグカップに中身を注ぐ。 「よし、今日は牛丼にしよう」  慣れた手つきでスマホを操作し、牛丼特盛つゆだくを頼む。 「そういやトイレットペーパーが切れそうなんだった」  マグカップ片手にソファベッドへ戻り、某有名通販サイトへ。おススメに出てきたトイレットペーパーをポチる。 「便利な世の中だなあ」  なんて呟いている間に、お待ちかねの牛丼が届く。支払いはもちろんスマホで。  一切外へ出る事なく生活できる。本当に便利な世の中だ。  そんな俺、海堂リクかいどうりくは、推定年齢100歳の吸血鬼だ。  職業は歴戦の自宅警備員。日中は外へ出れないし、見た目の変わらない吸血鬼であるから、就職はとうに諦めて、先物取引なんかで収入を得ている。  六畳一間のボロいアパート。年中上下スウェット、ボサボサ頭にさらに寝癖を重ねただらしのない俺。  これが昔々より語られる恐ろしい怪物の、現代の姿である。
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