第13話 ひと夜の夢

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第13話 ひと夜の夢

 1942年、夏。  その日、俺には二人家族が増えた。  1939年から勃発していたヨーロッパでの戦争に、真珠湾攻撃を機に参戦した日本が、次々と勝利を収める戦争序盤にして、不運にも親を失った少年たちだ。  軍部に身を置く親をもったのだから、それ相応の覚悟があって然るべき。  人の世に興味を失って早くも20年程の時を生きていた俺は、同情もクソもなく、ああそう、とだけ言って、家族が増える事を受け入れた。  彼らの名は源太と秋彦。家族になるのだから、海堂を名乗るのかと思っていたが、育ての親のような存在である海堂廉太郎はそれを許していなかった。  まあ、それもそうか。  吸血鬼になりたての彼ら二人は、これからが正念場だ。  なにせこの血への欲求は、簡単に制御できるものではない。  人にバレて殺されるか、欲求に負けて化け物になるか。どちらともなければ、彼らには素質があったという事だ。吸血鬼としての、素質が。 「お兄ちゃんなんだから、ね?面倒見てやって」  海堂はそう言って、またどこかへ行ってしまう。そうしてしばらくは帰ってこない。いつものことだ。  それからさらに2年が経ち、サイパンが陥落したことで、本土への攻撃が激しさを増した頃、俺たちは田舎の山村へ疎開した。  疎開というか、まあ、都会にいる人間が、どれも全部貧弱で味が悪いから、富裕層がいるという山間の村へ食料を探しに行ったのだ。  激化する本土への攻撃から逃れ、平然と裕福な暮らしを続ける人間だ。  俺たちに狩られても文句はないだろう?  弱者は強者に踏みにじられる。悪いがこれは、俺が人間だった頃に得た教訓だ。  そういう訳で、俺たちが辿り着いたその山間の集落には、まあまあ大きな別荘が建っていた。
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