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第16話 共同戦線
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そこはアメルンの北方に位置する、獣人の村ダラス。
ダラス村の後方には壮大な山脈がそびえ立ち、そろそろ秋口を迎えた今、既に身が凍えるような寒さに包まれている。
また、ダラス村はアメルンの端のため、近い街は国内のクリスティエラよりも隣国の街だ。
万年雪を戴く山脈の名はグルネラ山脈。
ここは太古の昔より、魔物の棲む山として恐れられている。実際、獣人たちは時たま山から降りてくる魔物の討伐を行っている。数が多い時には、クリスティエラの街へギルドの出動を要請することもあった。
「族長、やはり最近の魔物どもの出現数は異常です」
ダラス村の族長ティアナの家の中、数人の獣人が円座を組み、重々しい声で近況を語り合っていた。
「確かに。先週からさらに増える一方だ。毎度数は多くはないが、こうも頻繁にやってこられるとワシらも仕事ができんでな」
「しかしまだ対応できる範囲内だ。あまり人間を頼ると、あとから面倒にもなる」
彼らの収入のほとんどは、加工した貴金属だ。グルネラ山脈からは良い宝石と加工しやすい金が出る。
自給自足の彼らにとっては、唯一金銭を稼ぐ方法であるのだが、取引の交渉は人間側に有利になりがちである。
そもそも一般階級の人間にとって貴金属はそれほど価値はない。
一部金持ちや商人なんかを相手にすると、口の上手い彼らに、交渉は難航するのだ。そうして商人から貴金属を買い取るのは、王族や貴族であり、ギルドの要請を頼めば、彼らが恩を売ったと言い出すのは毎度のことだ。
「族長、判断はあなたに委ねる。だが、もうすぐ厳しい冬がくる。その前に、貴金属の加工を済ませ、冬場の備えに移りたいところだ」
「わしも同感じゃ」
豪華な装飾を施されたソファに、寝そべるようにして話を聞いていたティアナが、いつになく険しい顔でため息を吐いた。
吸血鬼たちが成したことは偉大だ。全ての種族間で交流を持つことができるような世界となった。
魔物たちの数も減り、国は栄えた。
だが、人間とその他の種族では、やはり数の多い人間が優位であると言ってもいい。
族長であるティアナとしては、人を頼り、交流を持つ事は必要であるが、獣人族の誇りにかけて、それは対等なものでなければならない。
ギルド要請自体は簡単だ。アシュレイに言えば良いのだから。だが、その内容が問題である。
ここまで魔物の出現数が多いとなると、いずれは国が動くだろう。
と、そこで外が騒がしくなった。
馬のかける音が近付いてくる。獣人族はみな聴覚が鋭い。室内の面々も気付いたようで、出入り口に目を向けた。
獣人族は馬に乗らないため、その来訪者が人間だとわかる。
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