141人が本棚に入れています
本棚に追加
誰かにこんな格好を見られたらどうしよう。
焦る僕をよそに二人は堂々としていた。
「役員専用のエレベーターなら、誰も乗り込んで来やしないよ」
中に乗り込み、地下一階のボタンを押すと、すぐに下降を始めた。
扉が開いて、薄暗い駐車場内を課長達が颯爽と歩き、駐車してあった黒のワンボックスの前で立ち止まった。
課長が、助手席のドアを開けてくれて、晋哉がゆっくりと革のシートの上に下ろしてくれた。
「目のやり場に困るから」
課長が着ていた背広をそっと掛けてくれた。課長が運転手席に、晋哉は後部座席にそれぞれ乗り込み、エンジンがかかり、ゆっくりと車が走り出した。
「あのまま、無理矢理、強引に、力ずくで、最期までしようとしたんだが、それでは、俺達の気持ちが朔也に伝わらない。逆に離れてしまう気がしたんだ」
「公亮さん?」
「俺も、晋哉も誰よりも君を愛してる」
課長の大きな手が、僕の手をそっと握ってきた。
さっきまであれほど冷たかったのに。
温かな温もりに正直戸惑った。
会社から、5分ほど走り、信号機のない横断歩道の前で急に停車した。
この道は毎日通勤するのに利用している。
この横断歩道には毎朝、近く小学校の保護者が交通当番で立っている。
ランドセルを背負った子供たちが元気いっぱい登校する姿を見送るのが日課になっている場所。
課長には何ら関係ないハズなのに。
「ちょうど2年前だ。君は覚えていないだろうが・・・足を滑らせ転んだおばあちゃんがいたんだ。誰もが見て見ぬふりで足早に通り過ぎていく中、君は立ち止まり、そのおばあちゃんを背中におんぶした。分厚いカタログを何冊も脇に抱えているにも関わらず、細い体のどこにそんな力があるのか驚いた。あれが、火事場の馬鹿力というもんだろうな。胸の社員証を見た時、すぐに伯父の会社の社員だと分かったよ。もともと伯父の会社には入る気はなかったが、どうしても君に会いたくてーーだから、君のいる営業課に配属を希望した。伯父は秘書として側にいて欲しかったようだけど、俺は君の側にいたかったから。今から考えてみれば、一目惚れだったんだろうな。なぁ、朔也、今すぐは無理だとしても、俺達を好きになってくれないか⁉恋人同士にならないか?」
課長のまさかの告白に完全に固まった。
最初のコメントを投稿しよう!