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作戦会議
「ど、どうしよう……」
あまりに素っ気ない一文に、途方に暮れるような心細さが襲う。
「これって、彼女とかいる感じなのかな!?」
傍にいる亜衣に詰め寄るも、難しい表情で返される。
「無くはないわね……あとは、単純に乗り気じゃないとか、もしかするとデリケートなセクシャリティ問題って可能性も……」
「セッ…!?そんな……」
たった一文で色々邪推されてしまい気の毒ではあるが、それだけこちらも必死なのだ。
だってそうだったら、はなから可能性がついえてしまう。
けれどこれはあくまで想像だ。振り切るように頭を振って、教室の片隅で昼食を取る彼をちらりと盗み見た。
中嶋悠聖。
同じクラスで、出席番号による最初の席順が前後だった。気になりだすにはよくあるきっかけ。
特に親しく話しかけられたわけではない。むしろ、その逆で。前から回ってくるプリントを渡すときくらいしか対面すらしたことがない。背がやや高く、物静かな人。そんな印象だ。
クラスのおちゃらけて大声で騒ぐ男子とは違う、かといって孤立しているのとも違う。
同じクラスメイトの堺政景――こちらはまさに上述したような男子だが――とは幼馴染らしく、意外な組み合わせだがたまに一緒にいたりもする。
休み時間だった。本を読んでいる最中に細いフレームの眼鏡の奥で、ふわりと和らいだ表情をしていたのを見たとき、私は目が離せなくなったのだ。
どこにいても、自分の時間を楽しめるような自由さを感じた。
のんびりゆったり自分のペースを保っていて、独特の空気がある人。
確かに、彼には浮ついた雰囲気がない
けれどもそんなところも含めて、ますます惹かれてしまうのだ。
「コミュニティは使うって書いているんだし、アプリをまったく使わないわけじゃないわ。――渚!」
「はっ、はい!?」
「戦に勝つにはまず情報から!コミュニティチェックよ!!」
亜衣が私以上にヒートアップしている気がするのは何故なんだ。さすが恋に生きる女。
目を通すと昼休み中に加入したのだろうコミュニティがいくつか表示されていた。
『読書好き』『神社やお寺巡りが好き』『ハムスター愛好会』今のところその3つ。
(想像の彼と解釈通り過ぎる~~!!!!てかハムスター好きだったの!?可愛い……)
声にならずに悶えて、たまらず突っ伏した。心が苦し過ぎる。
「萌えてるとこ悪いけど……割と地味よね」
「そこがいいんじゃん!!」
即答だった。
「まぁそのへんは置いといて。渚も同じコミュニティに入ってみたら?」
「う~ん……私の趣味じゃないのに下手に合わせるのも違くない?」
なんとなく、好きな相手にすり寄る真似のようで気が進まない。
「……じゃあ渚、今あるコミュニティのなかから自分の興味あるやつに入ってみて」
「え?うん、ちょっと待ってね」
『お菓子大好き!』『電子音を使った曲が好き』『泣ける少女マンガ』『カラオケで何歌うか悩む』
「こんな感じかな?」
「じゃあ、彼のページに飛んで、表示される相性はどのくらい?」
「んーと……21%!?!?えっ!?」
ひっく!思っていた以上に低すぎる……。
「でも、だからって無理に悠聖君の趣味にすり寄るのも……姑息じゃない?」
「……確かに、好きな人に合わせるのは主体性が無いみたく思えるかもしれない。けどね、発想を変えてみて?好きな人のおかげで、興味を持つ世界が広がったって考えるの」
「世界が、広がる……」
「そう。だって好きな人の好きなものに興味がわくのは当然でしょう?そこを後ろめたく思うことなんてない。渚が心から気になると思うなら、胸を張って好きになってもいいんだよ」
亜衣の声は力強く、そして優しかった。そうなのかな、きっかけが彼からでもいいのかな。
そんな言葉に背中を押されて、私はじゃあ、と声を上げる。
「あの中なら『神社やお寺巡りが好き』と『ハムスター愛好会』は興味があるかな」
すんなりと、言葉が出てくる。
知らない世界に足を踏み入れたようで、少しだけワクワクした。
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