序章 アルテミス・ロータス・ローランド

1/3
14人が本棚に入れています
本棚に追加
/14ページ

序章 アルテミス・ロータス・ローランド

メイド服に身を包み、王城内を歩く少女・アルテミス。 品のよい紅茶色の髪は纏めて結い上げられ、エメラルドを嵌め込んだ様な瞳は知的な輝きに満ちている。 メイド服さえ着ていなげれば、上級貴族の令嬢に見えよう。 しかし、王室付きのメイドなんかをやっている彼女だが、庶民でもなければ貴族でもない。 この王国を統べる国王陛下の従妹にして、傍系とはいえ王族なのだ。 彼女に与えられた名は、アルテミス・ロータス・ローランド。 女神の名前と、王族に準ずるものに与えられるミドルネーム『ロータス』を持っている。 彼女が仕える主、国王陛下の名は、ニュクス・マグノリア・ローランド。 女神・ニュクスと直系王族を示すミドルネーム『マグノリア』の名を連ねたその人は、艶やかな蜜色の髪と澄んだ湖の色をした瞳の美人だ。 物語に出てきてもおかしくないほどの美形な国王陛下だが、それは容姿に限った話である。 御歳二十六歳になる彼は、母親である王太后殿下から早く結婚をして世継ぎを残すよう、しつこくしつこく、それはもう聞きあきるどころか顔を会わせる前に逃げ出すほどに言われていた。 そんな国王陛下の目に留まったのが、従妹でありメイドとして仕えているアルテミスである。 「お呼びでしょうか、ローランド国王陛下」 片膝を付き片手で軽くスカートを持ち上げて礼をするアルテミス。 恭しく跪いた彼女だが、嫌な予感が背中を伝わり、今すぐにでもそのまま逃げ出したかったに違いない。 スカートを摘まんだ手が震えている。 「やぁ、親愛なるアルテ。君に頼みがあるんだ」 にこやかに告げる国王陛下。その美しい笑顔の後ろからどす黒いオーラが出ている。 逃げたいのに逃げられない。断ったら牢獄かそのまま処刑される。そんな笑顔だった。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!