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「わたくしめに出来ることでしたら何なりと……」
震える唇を噛み締め、アルテミスは何とか噛まずにそう告げることができた。
目にはうっすら涙が浮かんでいるが、気合いをいれて目を開き雫を溢さないように堪える。
「今すぐ私と結婚して子供を産んでほしい。相手はその辺の男で構わないから」
驚くほどさらっと、美しい国王陛下の唇から紡がれた言葉は衝撃的だった。
むしろ、衝撃しかない。クリティカルヒットの勢いだ。
言われた当人であるアルテミスは、軽く口を開いたまま固まってしまった。
「母上が私に結婚して世継ぎを作れと五月蝿い。私は結婚するつもりもないし、子供を作るつもりもない。だからアルテ、君が私と結婚したことにしてその辺の男との子供を王族として育てろ」
自分が嫌なことを年下の従妹に押し付ける国王陛下。
威圧的な黒い笑顔に、アルテミスの口からは断る言葉が出てこない。
だが、しかし、それを了承することもできずに固まってしまった。
何せ彼女はまだ十四歳になったばかりなのである。
この国の成人は十六歳。彼女が成人するまであと2年ある。
いくらアルテミスが傍系王族だとしても、無茶な要求だった。
「ニュクス陛下、妹を苛めるのはそこまでにして頂こうか」
顔を青くして固まっていたアルテミスの前に一人の青年が立ち塞がった。
近衛騎士団の制服に身を包んだ長身の青年は、ちらりとアルテミスを振り返る。
「お兄様……」
安心したのかアルテミスはエメラルドの瞳から透明な雫を溢した。
そんな妹の様子を見て、目の前にいる君主を鋭い目で睨み付ける。
「アポロン、君は近衛騎士……言わば私の剣だ。主をそんな目で見るものじゃない」
「いくらなんでもやりすぎだ。王太后殿下に相談させていただく」
言い返してきたアルテミスの兄・アポロンの口からでた母親の名に、流石の国王陛下も慌てた様子になった。
一国の王と言えど、口うるさい母親には敵わないのだろう。
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