陰る日常

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陰る日常

 レースのカーテンが西陽を纏う風にそよいでいる。  エアコンの風が苦手な良幸も、今年の冷夏には感謝しているだろう。わたしはそんなことを思いながら、リビングのソファーで仰向けに寝転がる良幸を、少し奥のダイニングテーブルから見るともなく見ている。  薄陽に照らされ、イビキをかきながら腹を上下させている良幸を見ていると、相も変わらず可愛らしいと思う反面、最近はその純粋な感情に不穏な色が一滴、一滴したたり広がっていくのを感じていた。  冷めきったコーヒーを口に含み、良幸から視線を外し、陽も届かないオープンキッチンへと目を滑らせる。昼に食べたナポリタンのケチャップの匂いが、わずかに届く風に押し負けることなく鼻先をかすめる。  土曜日の十五時をいくぶん過ぎている。頭を今夜のご飯は何にしようかとの日常的な、ある意味惰性とも取れる思考が埋めていく。  はあ、とついたため息が、また不穏な色を一滴。じわりと広がる波紋に乗って、戸惑いも静かに押し寄せる。わたしは黙ってそれを受け止めていた。
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