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不思議な夢
力の限り振り下ろされる大剣。余波が血しぶきと共に葦を震わす。
白銀の甲冑を月夜の光に照らさせ、なびく黒髪は収まるところを知らず。
紅い唇は硬く結ばれ、黒の瞳に火を宿す。
声なき咆哮は幾千里を駆け巡り、眼前の敵を脅かす。
縦に振れば一刀両断、横に振っても一刀両断。
自身ほどもある、清魂で打ち鍛え上げた鋼の剣は決して欠けることなく、折れることもなく。
「さあ、かかってらっしゃい!」
猛る女騎士に怯む黒の者達。
「おや、おや、随分と威勢のいい女騎士さんだ」
怯え固まる敵からゆっくり吐き出されるは長身痩躯テンガロンハットの黒衣のガンマン。
「さあて、今度は俺が相手だ」
その言葉に、女騎士は大上段に剣を構える。
なんだろうこれは? 映画? それとも夢?
その時いきなり、ぐがあー、んごーと耳障りな音が聞こえてきた。
あれ? 意識がはっきりと晴れたように感じて目を開けると、眠りについた時と同じ暗闇の中だった。
背中越しから良幸のイビキが聞こえてくる。帰ってきたことにまったく気づいてはいなかった。
部屋にアルコールの匂いが漂っているのを感じる。
ブランケットを捲り、ゆっくりと身体を起こす。
喉の渇きと少し蒸す空気に冷たい水が欲しくなる。
良幸が帰って来てるということは、もう四時を回っているんだと、ぼんやりとした頭で認識する。
「それにしても……。今の夢って……」
大きな剣を振り回していた女騎士は、なんだかすごくわたしに似ていた。それに、はっきりとは見えなかったけど、鎧と剣に文字が書いてあったような。うーん、なんか気になる。
真っ暗な部屋でわずかに頭を揺らし、さっきまでみていた奇妙な夢の残像を振り払う。
「まあ、いっか。よく分かんないし」
わたしは小声で呟き、水を求めて部屋をあとにした。
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