経験者曰く

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「虚無ねえ……」  喧騒に紛れて呟いた言葉を真由美は聞き逃さない。 「そう、虚無なのよ! そうなると、なんで一緒にいるの? ってなるわけよ。冴子もそうだけど、別に旦那に頼んなくても食べてけるしね。かすがいの子供もいないし、じゃあ、自由になっちゃえってね」  今年三十二歳になるわたし達の仕事は公務員だ。わたしは県庁勤務、真由美は市役所勤務。真由美の言うことも分かる。確かにずっと一人でも生きてはいけるだろう。じゃあ、結婚の意味ってなんだろう? 一緒にいたいだけならする必要はないし。世間体? 今のご時世そんなに気にする必要もないと思うし。結局は将来できるかもしれない子供のため?   頭を埋める疑問を流すようにジョッキを煽る。温くボヤけた味だ。 「大将、生一つ」  心情をあらわすように、声に張りも勢いもないなあと自分でも感じる。  あてのお新香をぽりぽりとつまみながら、流したはずの疑問がまた頭を埋めていく。そもそもなんで一緒にいるんだろ? 「はいよ、生二つお待ち!」  大将の太く威勢の良い声が、そんな疑問をまた流しさってしまった
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