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初めて会ったのは、わたしの行きつけの店、『Bar Tio Diego』だった。
課の飲み会後に、いつのもようにふらっと立ち寄ったら、見知らぬ顔が立っていた。マスターと同じ赤いベストを着て、似合わないオールバックと緊張した面持ちの幼顔。
「冴ちゃん、彼今日からなんだよ。よろしくしてやってね」
マスターからそう紹介された。
「は、はじめまして。佐藤良幸と申します。見習いとして入店しました。よ、よろしくお願いいたします」
おどおどしながら自己紹介をして頭を下げる良幸に、わたしの課に配属された新人にはない新鮮味を感じて、酔いも絡んで声色良く自己紹介をした。
「はじめまして! 高井冴子です。良幸君、よろしくね!」
初対面なのに失礼だとも思わずに、わたしは根掘り葉掘り質問をした。酒の勢いって本当に恐い。
良幸はわたしの威勢にさらにおどおどしながらも、隠すことなく答えてくれた。
大学を卒業して地元大手の食品会社に入社したものの、飲み歩いているうちに酒の世界に興味を持って、二年半で会社をやめてしまったこと。一番好きなマスターの元で働きたいと、なんとか頭を下げて見習いにしてもらったこと。
素直に答えてくれる良幸を可愛らしいと思いながら、それをあてにわたしは杯数を重ねていった。
それからは心なしか店に顔を出す回数が増えた気がした。悪くない勤め先をやめてまで、やりたい仕事についた良幸を応援したかったのかもしれない。
「なんかさあ、最近回数増えたよね。いや、うちはありがたいんだけどね」
マスターの少し寂しそうな嫌みが出るくらいには、やっぱり増えていたんだろう。
良幸の時間と共に板についていくオールバック姿を見ているのも楽しかったのかもしれない。二十五歳の割にはあどけなさの残る、色白で二重の大きな目が特徴の顔。その顔が、段々大人の雰囲気を纏っていく過程を見るのが好きだった。わたしの同世代の男達にはない成長速度。会う度に違った顔を見せてくれる。そんな良幸にこの時すでに惹かれていたのかもしれなかった。
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