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出会って二年
夜も九時を回ったころ、真由美の語りのペースも落ちてきて、充血した目が微睡んできた。
わたしはこのタイミングを逃さず、大将にお会計を頼み、まだ飲むと渋る真由美を引きずるように店を出る。
だけど外に出るやいなや、「またねー」とご陽気な言葉を残して、真由美はさっさと近場のタクシーに乗り込み帰っていった。
結局、言いたいことを言いたいだけ言って、真由美はさぞや気分が晴れただろう。でも、中途半端に残されたわたしは?
割り込む余地もなく語られて、フラストレーションが溜まってしまった
月も影をひそめ、星も見えない夜。一人佇むわたしを、湿り気を帯びた緩い風が不快に撫でる。
真由美から解放された反動で、急に寂しくなって自然と呟いていた。
「はあ……。帰ろっと」
マンションの六階にある自宅に変な疲れを背負っまま帰宅し、乾いた鍵音を無人の廊下に響かせドアを開ける。外気と変わらない蒸した空気が顔を打つ。
「はい、ただいま帰りましたよっと」
ドアを閉めて、内鍵を締める音と独り言を真っ暗な廊下の奥へと吸い込ませる。
灯りをつけて、少し乱暴にパンプスを脱ぐと、背負った疲れも若干軽くなった気がする。
ふわふわした足取りでリビングに入り、部屋を明るくして、エアコンのスイッチをいれる。そして、窓際近くのソファーに雪崩れ込むようにうつ伏せに身体を投げ出す。
「ぶわー」
良幸は仕事に行っているので、変な声をあげても誰に気兼ねすることもない。
「もう二年かあ……」
ふと、良幸と出会った頃が頭をかすめる。
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