ひとつのアイス

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「ひっさしぶりなのよん」 軽いステップで階段を登る俺。 へへえ。今はお昼休み何だけどさ。 三階の踊り場でクルリと回転したら、頭の上でチェリーがぶつかり合ってカチンと鳴った。 「チェリー」 教室にいた俺に、声をかけてきたのは隣のクラスの男子。屋上で相田皐月(アイダ サツキ)が待ってるって伝言。 1年のときに二回告られたことあったけど、2年に上がってからは初のお呼ばれ。 浮き足だつよね?嬉しいよね? もちろん嬉しい! 相田皐月ちゃん。…皐月ちゃん…皐月…。 あれ、ちょっと待て俺。相田皐月って…1年のときに同じクラスにもいたよな…。 いやいやいや。ないない。ないって! あいつは男だったし! あれ…もしかしてこれ…違う呼び出し? あれれ…まさかね…。 「俺…痛いのは嫌い何だけどなあ…」 ポツリと階段の途中で呟いた。 「痛くないようしてやるけど?」 「うわあ!」 びびびっくりした。気配消せるの鈴木? 「何キョドってんだよ佐藤、休み終わるぞ」 キョドってたか…。 俺は鼻の頭をポリポリかきながら、鈴木をチラリと見た。 …えへっ。 「ついてきて」 「…連れションかよ」 相田皐月の説明をしながら、たどり着いた屋上の扉の前。 そおっと扉を開けて、そおっと扉を閉めて鈴木を見た。 「…俺、テンション下がったし帰る」 「いいから行けよ」 「めっちゃ恐い顔してたよ!」 「相田は強面が標準装備だろ」 なにそれ! オプションで暴力ついてるだろ! きっと…。たぶん…。 仕方ないから行くけど。 「おせえ」 相田はギロッと俺を睨んできた。思わず鈴木の手をぎゅっと握った。 「…なんで鈴木と手え繋いでんだごらっ」 ………怖いって。 「えっと、ハニーだから?」 「え、オレがハニー?」 「え?違うか?」 「相田、鈴木ハニーだ。よろしく」 「バカにしてんのか」 俺と鈴木で頭を振る。 「してないし」 「むしろバカは佐藤だし」 ………本音出た? 「ええと…佐藤バカです」 …。 ……。 ………沈黙って暴力になるんだな。 「俺は佐藤に話がある。鈴木は消えろ」 「じゃあ消えるわ」 扉に向かおうとした鈴木だけど、足を止めた。 えへへえ、とにっこり笑いかけてみる。 「一緒に帰ってどうすんだよ」 「だってえ~」 「放しなさい」 「放しません」 だって鈴木帰ったら俺相田にボコられちゃうじゃん! 「いい加減にしろや!」 わ、相田がキレたし!やっぱ怖いじゃん! 「俺は!佐藤が好きだ!」 やっぱ怖いじゃん。色んな意味で…。 「俺と付き合え!」 とりあえず鈴木をみた。鈴木は俺の目を見て頷いた。 「買い物…」 「じゃないのは確かだな」 やっぱし? 相田かあ…相田とかあ…。 ん、ムリ。 「全力で断ります!」 「んだとごらあっ!」 ひい!暴力反対! 「まあまて相田」 とりあえず顔をガードした俺の前に、鈴木が立った。助かった。 「まずはどこをどう転んで佐藤バカに惚れたのかを原稿用紙三枚に纏めてきたらどうだ」 「ああ? まとめなくても今言ってやらあ!」 ムダにケンカ買ってない相田? あ…チャイムだ。 無視ですか…。 帰りてえ。 「まずは…その、笑顔だ」 相田が照れてる! 「それと…優しい、とこだ」 ええ!聞いたか?俺優しいって! 「あとは…ユニーク、なところだ…」 ん? 「ついでに、バカな…ところ…」 ノーっっっ!!!泣いてもいいですかかあっ! 「ぜってえお前とは付き合わないっ!」 「な!なんだとごらあっ!」 「ムダに吠えんなよ駄犬!」 くそおっ! ムカつく!ムカつく!!ム~カ~つ~く~!! 「まあ落ち着けって。」 肩をぽんと叩く鈴木に抱きついた。 「あいつ俺のこと好きだとか言っといて、めちゃくちゃ俺のことけなしやがったあ!」 ぎゅっと鈴木に抱きついて泣いた。 あ…鼻水…拭いちゃえ。 「お、おい佐藤、俺は別にけなしてなんか…」 「いや、けなしてたな」 よし鈴木言ってやれ! 「佐藤のバカは標準装備だ。むしろ優しいってなんだ優しいって」 え? 「佐藤の優しさにはすべて打算が隠されているのに、気がつかなかったのか相田」 ええ!?知らなかった…。 俺ヤなヤツじゃんそれ! 「そ、うなのか?」 「そうだ。まだ間に合う。目を醒ませ相田」 相田は白い顔で屋上から去っていった。俺はそれを、鈴木に抱きついたまま見送った。 ふう…助かった。 が。 納得いかなあああい! 「鈴木…」 「なんだ佐藤」 「鈴木…」 「どうした佐藤」 「さっきの…」 「嘘は佐藤を救ったな」 「俺の評価はがた落ちだけどな」 「始めからがた落ちだから安心しろ」 「鈴木くんのバカッ!」 「ダーリン機嫌直せよ」 ちゅ 「…ハニー教室戻ろうぜ」 「了解ダーリン愛してるぜ」 …。 ……。 ………。 「あ、たぶん俺も」
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