逃げる

1/3
439人が本棚に入れています
本棚に追加
/22ページ

逃げる

相田はぼんやりと雑誌を見ていた。夕方の、コンビニ。 ちょっとお腹が減ってきていたけど、何も食べる気にならない。 やはり…自分は失恋してしまったのだと、改めて思う。 最初から振られていたけど…でももう可能性が限りなく0になったのだ。 相田はため息を吐いて雑誌を棚に戻す。 学祭を途中でフケた、帰り道だった。 相田は、1年の時から気になる相手がいた。 いつも無邪気に笑っていて、クラスでも人気なお調子者の佐藤。 頭のてっぺんで金色の髪を、いつもおかしなゴムで結んでいる佐藤。 クラスでもちょっと浮いていて、友達のいない自分とは、正反対な佐藤。 淡い初恋の相手は、男だった。 相田は2年になり、佐藤とクラスが別れて、しばらくして佐藤に告白をしてみた。 振られた。けど、友達にはなれた。 友達のいない相田は、もうそれでいいやと思っていたけど…。 佐藤が好きだと言い出したのが、自分と同じ男だったから、何だかやるせない気分になっていたのだ。 いつもの自分なら、佐藤の相手を脅しかけてみたり、暴力的な手法での話し合いをしたかもしれない。 佐藤に近づくな、と。しかし、相手が悪かった。 佐藤の好きだと言い出した相手は鈴木といって、相田は…鈴木が苦手だった。 ちょっと長めの黒髪から覗くあの黒目。周囲を威圧する毒舌。 相田は、正直鈴木が怖かったのだ。 そんな鈴木は、しかし相田とも友達だった。 相田は、佐藤と一緒に鈴木の家に行ったり、昼飯を一緒に食べたりしている。 思えば、あいつらはいつも仲が良かった。 「…はぁ…」 もうあいつらの事は忘れよう。 相田は、とぼとぼとコンビニを出て歩き出した。 家に帰るにはまだ早いから、相田はとぼとぼと商店街を徘徊していた。 そこに災厄が待ち構えてるとも知らず。 相田は、商店街の裏道で困っていた。 とぼとぼと歩いていただけなのに、他校の生徒に絡まれてしまったのだ。 昔から目付きが悪かったし、背も高くて筋肉質だったから、何かと絡まれやすかったりはしたけど。 相田は別に、自分は不良ではないと思っている。 だけど、相手はそうは思ってくれないのが、相田にはうざったくて悲しい事だった。 相田は知らなかった。 自分の悲しい顔や緊張した顔が、すごく恐い顔だと言うことを。 もういっそ、こいつらにボコられて泣いてしまおうか…相田はそんなことを思いながら、ガラの悪い相手の拳を、顔面で受け止めた。痛い。 痛いのは嫌いな相田は、やはり殴られたくないと思い直し、逃げた。 「まてごらっ!」 商店街の裏道で、鬼ごっこをする自分に、やっぱり相田は哀しくなった。
/22ページ

最初のコメントを投稿しよう!